医師・医療従事者・医療機関の方々に対する法律事務所からの情報発信です。赤井・岡田法律事務所HP: http://www.akai-okadalaw.com


by 弁護士 赤井勝治
 医師の先生方は、他の医療機関で治療を受けていた患者さんを、紹介などによって引き継いで治療することになったり、逆に、先生方自身が治療に当っていた患者さんを他の医療機関に紹介するなどして引き継いで治療をしてもらうようお願いされることがあると思います。

 今回は、患者さんに対する診療がある医療機関(前医)から他の医療機関(後医)に引き継がれた場合における両医の責任の有無が問題となったケースをご紹介いたします。

 事案は、肥満および右膝異物除去手術という肺塞栓症の素因を有していたAさん(当時48歳、消防士)がX病院に入院中に、容態が急変したことからY病院に移送されたものの、肺塞栓症により死亡したというものです。
 Aさんの遺族らが、Aさんには肺塞栓症を疑わせる所見が見られたにもかかわらず、X・Y病院の各担当医師ともにこれを疑わず、いずれも漫然と心疾患と診断して肺塞栓症に対する適切な処置を取らなかったためにAさんを死亡させたとして、X・Y病院に対して、不法行為に基づく損害賠償を請求しました。

 原審の熊本地方裁判所(熊本地裁平13(ワ)第785号事件、掲載誌なし)は、X・Y病院の各担当医師がAさんの肺塞栓症を疑わなかったことに注意義務違反(過失)は認められないとして、Aさんの遺族らからの請求を棄却しましたが、控訴審の福岡高等裁判所(福岡高裁平16(ネ)第1017号事件、判例タイムズ1227号303頁)は、原審の判決を変更して、X・Y病院の責任を認めました。

 控訴審では、Aさんの肺塞栓症発症の原因と時期をめぐって、X病院とY病院との間で鋭い対立が見られました。
 X病院側は、肺塞栓症発症の契機となった塞栓子は、Y病院に移送後の同病院における冠動脈造影検査により発生したとしか考えられないと主張したのに対し、Y病院側は、その原因は右膝異物除去手術にあり、X病院在院中に既に肺塞栓症を発症していたと考えられると主張したのです。
紙面の都合上、詳細な事実関係や具体的な主張内容については割愛させていただきますが、控訴審では、Aさんの肺塞栓症はX病院に入院している間に発症していたと認定されました。

  赤井・岡田法律事務所
京都市中京区新椹木町通竹屋町上る西革堂町184番地
                  オクムラビル2階
        TEL(075)257-6033
        FAX(075)212-3670
執筆責任者 弁護士 赤井勝治(京都弁護士会所属)
[PR]
# by motomame | 2014-04-17 09:00

医師の説明義務(2)

 前回に引き続き、医師の説明義務そのものについて説明したいと思います。

 説明義務の範囲
 これについては、前述の患者の自己決定権を実質的に保証するに足りる内容のものとされています。
 判例(最高裁平成13年11月27日判決)では、「患者の疾患の治療のために手術を実施するに当たっては、診療契約に基づき、特段の事情のない限り、患者に対し、当該疾患の診断(病名と病状)、実施予定の手術の内容、手術に付随する危険性、他に選択可能な治療方法があれば、その内容と利害得失、予後などが説明義務の対象となる」としています。

 説明の時期
 これは、当該侵襲的治療行為の前です。

 説明義務違反の効果
 説明義務違反があっても、当時の臨床実践における医療水準に従った診療、治療行為がなされた場合、仮に、患者に後遺症や死亡などの結果が発生しても、原則として医師がこれらの結果についてまで責任を問われることはありません。この場合には、患者が自己決定権を行使する機会を奪われたという精神的損害に対する慰謝料が認められるのみです。
 ただし、例外的に、説明義務が尽くされていたならば、後遺症や死亡という結果が発生しなかったという因果関係が証明されれば、医師は全損害に対する責任を負うことになります。
 説明義務違反についての有名な事件としては、「エホバの証人」患者への輸血事件(最高裁平成12年2月29日判決)があります。
 この事件では、肝臓腫瘍の摘出手術を行うにあたり、医師が、輸血拒否の固い信念を有しているエホバの証人の信者である患者に対し、他に救命手段がない場合には輸血するという治療方針について説明すべき義務に違反したとして、慰謝料50万円が認められました。
 裁判で認められている慰謝料の金額としては、20万円~500万円程度のものが多く一般的には、さほど高額にならないことが多いと考えられます。

 特別なケース
 特別なケースとしては、まず、医療水準上の治療方法が確立されていないケースがあげられます。
 これについては、極小未熟児の未熟児網膜症などについて、いくつかの裁判例があり、裁判例の流れとしては、当初は医師の説明義務は否定されていました。しかし、近時は、必ずしも当時の臨床医学の実践における医療水準として確立されていない治療方法であるからといって、直ちに説明義務がないとは言えないとして原則としては説明義務を否定しながらも、例外的に説明義務が肯定される余地を認めるものが出てきています。
 次に、特別なケースとしては、一定の効果や結果の達成を目的としてなされる医療行為(美容整形など)のケースがあげられます。
 美容整形、歯科の審美的治療、近視改善術などは、一定の効果や結果の達成を目的として行われるものであり、これらについては、通常、緊急性と必要性に乏しく、説明すべき時間的余裕が十分にあります。
 よって、医師は、当該美容整形等を選択する必要性の有無、手術内容、方法、代替的診療方法の有無、後遺症発生の有無、内容、程度、当該医療行為をしなかった場合の予後などについて患者に十分説明をすべきとされます。そして、医師が説明を十分尽くしていたならば、患者は当該医療行為を受けなかった蓋然性が高いと考えられることから、医師に説明義務違反があった場合には、原則として、医師は当該医療行為によって生じた結果の全てについて責任を負うものとされます。

  赤井・岡田法律事務所
京都市中京区新椹木町通竹屋町上る西革堂町184番地
                  オクムラビル2階
        TEL(075)257-6033
        FAX(075)212-3670
執筆責任者 弁護士 赤井勝治(京都弁護士会所属)
[PR]
# by motomame | 2014-04-10 09:00

医師の説明義務(1)

 従来から、医療訴訟が提起される発端の一つに、医師の説明不足があることが指摘されてきました。
 そこで今回は、医師の説明義務そのものについて説明したいと思います。

 説明義務の根拠
 主として二つの根拠が挙げられます。
 その一つは、治療行為(侵襲的治療行為)に対する患者の同意、承諾を得るために必要だという点です。
 手術、麻酔薬の投与、検査のための造影剤投与等の患者の身体への侵襲を伴う治療行為については、患者の同意、承諾が必要であるため、患者から有効な同意、承諾を得る前提として、医師には手術等の内容や危険性についての説明が義務づけられます。
 この点についての、リーディングケースとなった判例に、最高裁昭和56年6月19日判決があります。
 これは、頭蓋骨陥没骨折の傷害を受け、それによる脳内出血の疑いがある患者に対し、医師は早期に開頭のうえ脳内血腫の除去手術の必要があると考え、同手術の内容及びそれに伴う危険等を説明して手術をしましたが、患者が死亡したという事案で、裁判所は、「頭蓋骨陥没骨折の傷害を受けた患者の開頭手術を行う医師には、右手術の内容及びこれに伴う危険性を患者又はその法定代理人に対して説明する義務がある」としました。

 根拠としてのもう一つは、患者が、自己の生命、身体、機能をどのように維持するかについて自ら決定する権能(自己決定権)を行使するために医師に課されるという点です。
 その根底には、いわゆる「インフォームド・コンセント」の考えがあります。ここに言う「インフォームド・コンセント」の内容は、患者が自己の病状、医療行為の目的、方法、危険性、代替的治療法などにつき正しい説明を受け、理解した上で、自主的に選択・同意・拒否できることをいい、①医療従事者からの十分な説明と、②提供された情報に基づく患者側の理解・納得・同意・選択という2つの内容を含むものとされています。
 この点についての裁判例(東京地裁平成12年12月25日判決)では、「一般に、医療上の治療行為を行うについて、それが患者の身体に対する侵襲行為に該当する場合には、原則として、医師又は歯科医師は、患者に対し右治療行為の内容及びこれに伴う危険等について事前に説明した上、患者の同意を得るべき義務を負っているというべきである。そして、これは患者の立場からみると、患者は原則として、自己の受けるべき治療について一定の決定権を有しているというべきである。」とされています。

 このように医療機関は、診療契約に付随する義務として、特段の事情がない限り、所属する医師等を通じて、医療行為をするに当たり、その内容及び効果をあらかじめ患者に説明し、医療行為が終わった際にも、その結果について適時に適切な説明する義務を負うものとされます。

 説明の相手方 
 説明の相手方は、原則として患者本人ですが、それが困難な場合には法定代理人などの本人に替わるべき者ということになります。

  赤井・岡田法律事務所
京都市中京区新椹木町通竹屋町上る西革堂町184番地
                  オクムラビル2階
        TEL(075)257-6033
        FAX(075)212-3670
執筆責任者 弁護士 赤井勝治(京都弁護士会所属)
[PR]
# by motomame | 2014-04-03 09:00
 前回は、総論をお話しいたしましたが、今回は看護師の過誤について考えてみたいと思います。

 看護師は、保健師助産師看護師法(以下「看護師法」と言います)によれば、「療養上の世話」と「診療の補助」を行うことができます。
 「療養上の世話」(看護師法5条)とは、いわゆる看護行為のことを指し、傷病者、じょく婦に対し、その身辺を物理的、心理的に世話を行うことであり、これらについては法律は、看護師の固有の業務として、医師の指示なくして看護師の主体的な判断で行うことができます。
 「診療の補助」(看護師法37条)とは、その名の通り、医師によって行われる診療を補助する行為です。
 これについては、療養上の世話と違って、医師による指示が必須ということになります。さらに医師の指示があれば何をしてもいいというわけではなく、看護師の知識、能力に見合った行為でなければならないとされております。
 したがって、「診療の補助」行為は、医師の指示に基づいた看護師の知識能力に見合った行為に限定されることになります。
 ここでいう医師の指示ですが、医療行為の内容、患者の状態、さらには看護師の能力によって、具体的な指示が必要とされる場合、一般的包括的な指示で足りる場合など、指示の内容が異なってくるとされております。
 また、補助はどこまで許されるかいう問題があります。
 看護師に許されるのはあくまで「診療の補助」であって、「診療」そのものではありません。たとえば、診療の中でも、薬を処方したり、手術をしたりすることは、医師以外には許されず、看護師には許されないと解されており、これらの行為については絶対的医行為といわれて、「診療の補助」として看護師が行うことは許されません。
 他方、医師の指示があれば看護師が行える医行為を相対的医行為といい、これらについて、診療の補助として行うことができます。

 このような看護師の業務について、過誤があった場合には、医療機関や看護師自身が、刑事責任や民事責任を負うことになります。
 まず、「診療の補助」についてですが、指示者で看護師の使用者たる医師についても業務上過失致死傷罪に問われますし、看護師自身も業務上過失致死傷罪に問われることになります。
 また、民事責任についても、医師については債務不履行責任、看護師についても不法行為責任が問われることになりますが、4.で後述するように、この責任については限定的に考えることになります。
 次に、「療養上の世話」についてですが、「療養上の世話」は、看護師の固有の業務として看護師が主体的に取り組むことができる業務です。
 しかし、刑事責任については、看護師の「療養上の世話」の内容が明らかに間違いであり、それを医師が把握していたもしくは把握できたのにしなかった場合に医師にも業務上過失致死傷罪が問われる可能性があります。また看護師自身についても「診療の補助」と同様、業務上過失致死傷罪などの刑事責任を問われる可能性があります。
 なぜなら、「療養上の世話」についても、医療機関は、傷病の内容によっては、診療契約の内容として患者に対して「療養上の世話」をする義務を負っているからです。
 したがって、民事責任についても、看護師が過誤をした場合、医療機関自身が債務不履行責任を問われることになります。
 そのため、医療機関自身(具体的には主治医が行うことになるでしょう)が、看護記録などをきちんと検討し、不十分なところや不適切なところがあれば、改善するように指示をする必要があります。
 少し本題から外れますが、看護記録には医師に言いにくい患者の訴えが記載されていることも珍しくなく、看護記録を十分検討していれば、患者の不満を早期にくみ上げることができる場合もありますので、看護記録はよく読んでいただければと思います。

 さて、看護師の看護行為については、ミスが起これば即責任を問われるものではありません。その看護師の看護行為が、看護行為当時の看護水準に照らして妥当か否かで判断されることになります。
 具体的には事故当時の臨床看護における看護知識及び看護技術の水準が基準となって判断されることになります。
 したがって、当該看護師が一生懸命尽くしたか否かではなく、標準的な看護師の水準からみて当該行為が水準を満たすものだったのか否か判断されることになります。よって、看護師になって間もない者についても同様の看護水準が要求されます。
 この看護水準ですが、時代とともに進歩するものですので、常に水準を満たすように看護師は研鑽する必要があります。自分が看護師として勉強をした時代の看護が水準を下回るようであれば、現在の水準に達するように研修を受ける等する取り組みが必須となります。
 また、ここで言う看護水準は、医療機関の規模や専門分野によって異なります。

 他方、医師の指示の下に診療の補助を行った場合は、どう考えるべきでしょうか。
 まず、診療自体は医師の判断と責任によって行われるべきなので、看護師への指示が誤りであれば、原則として看護師は責任を問われないことになります。
 しかし、指示の誤りが明白である場合、たとえば血液型がO型の患者に対して、医師がA型の患者に投与すべき血液製剤を輸血した場合など、看護師としては指示の間違いについて指摘し、それでも医師が指示を維持する場合、看護師としては指示に従うことを拒絶すべき義務があると解されますので、もし指示に従ってしまった場合は看護師も責任を問われることになります。
 また、指示が不明確や不十分である場合は、看護師には医師に対して問い合わせする義務があると解されています。

 以上のように、看護師の看護過誤については、医療機関や医師自身にとっても責任を問われる場面が考えられますので、看護師の問題だからといって軽視するのではなく、医療過誤と同様にその発生を防止する取り組みを進めていくことは重要であるといえます。

  赤井・岡田法律事務所
京都市中京区新椹木町通竹屋町上る西革堂町184番地
                  オクムラビル2階
        TEL(075)257-6033
        FAX(075)212-3670
執筆責任者 弁護士 赤井勝治(京都弁護士会所属)
[PR]
# by motomame | 2014-03-27 09:00
 今回は、医療機関に勤務する医師、看護師、臨床検査技師、さらには受付事務員などのスタッフのミスについて、開設者たる医師(以下「開設者」と言います)はどのような責任を負うのか考えてみたいと思います。
 まずは、総論をお話をして、次回は看護師の補助行為の限界と看護師のミス、いわゆる看護過誤についてお話をしたいと思います。

 まず医療機関の開設者は、患者さんとの間で明示又は黙示の診療契約という契約を締結して、診療をされることになります。そして、開設者自身の過失によって、患者さんに損害(障害や死亡の結果など)が発生した場合、当然開設者の債務不履行責任が生じ、損害賠償に応じなければならないことになります。

 では、開設者以外の勤務医が、過失によって患者さんに損害を与えた場合はどうでしょうか。
 民法では、原則として、契約当事者自身の過失によって生じた損害について、契約当事者自身が負担をするということになっています。そうであれば、開設者は直接問題を起こした訳ではないので、責任を負わないとしていいのでしょうか。
 そうではありません。民法では、契約の当事者だけではなく、その契約当事者を補助する者の過失についても契約当事者自身の過失として同じように取り扱うべきだという考え方があります(いわゆる履行補助者の故意・過失の理論)。
 この考え方に基づいて、契約当事者自身が責任を問われることになります。

 これを医療機関に当てはめて考えてみると、開設者に直接の過失はなくても、勤務医に過失があれば、開設者自身も契約当事者として損害賠償責任が生じることになります。
 したがって、開設者としては、勤務医の診療行為に問題がないかチェックをしておく必要があります。
 そのためには常に勤務医とコミュニケーションを円滑にとれるように関係を整備し、勤務医のミスが早期に発見できるようにしておきたいものです。

 では、看護師のミスによって患者さんに損害を与えた場合はどうでしょうか。
 看護師は、医師の診療行為の補助行為及び看護行為を行うことができます。看護師は、その位置づけからして、勤務医に比べて履行補助者であることがはっきりしており、開設者は看護師の過失について責任を負うことになります。
 また、看護師が診療補助行為や看護行為以外のいわゆる医行為を行った場合は、看護師が医師法違反になるとともに、そのような行為を黙認していた開設者も医師法違反に問われることになります。

 受付などの事務スタッフがミスをした場合はどうでしょうか。
 たとえば、患者さんの情報を不意に外部へ漏らしてしまったり、薬を間違って渡してしまった場合等です。
 受付スタッフは医療及びその補助自体を行う立場ではありませんが、開設者は患者さんの情報を適切に管理すべき義務が診療契約上認められると解されますし、また当該医療機関が投薬まで行っている場合は、投薬の行為(適切適量な薬を渡すこと)についても適切に行うべき義務があると考えられます。
 したがって、事務スタッフの仕事も診療契約上の履行補助者としての仕事と位置づけられることになり、勤務医や看護師と同様に事務スタッフの過失についても開設者は責任を負うことになります。

 このように、開設者は自らの診療行為に気を配るだけではなく、勤務医や看護師などの医療スタッフ、受付などの事務スタッフ等、医療機関に勤務する全てのスタッフの行為について常に気を配り、ミスが発生しないように、またミスが発生してもリカバリーできるような体制を作ることが肝要です。
 次回は、看護師の過誤と看護師の診療補助行為の限界についてお話をしたいと思います。

  赤井・岡田法律事務所
京都市中京区新椹木町通竹屋町上る西革堂町184番地
                  オクムラビル2階
        TEL(075)257-6033
        FAX(075)212-3670
執筆責任者 弁護士 赤井勝治(京都弁護士会所属)
[PR]
# by motomame | 2014-03-20 09:00