医師・医療従事者・医療機関の方々に対する法律事務所からの情報発信です。赤井・岡田法律事務所HP: http://www.akai-okadalaw.com


by 弁護士 赤井勝治
 大規模災害において医療機関が抱えるであろう法的な問題について、考察してみたいと思います。

 地震による災害によって、医療機関が抱える可能性のある法的問題は、大きく分けて3つあると考えられます。
 まずは、①建物などの倒壊・損傷によって患者さんに被害が発生した場合の問題、次に、②大規模災害を原因とする停電や断水によって医療機器が突然使用できなくなり、患者さんに被害が発生した場合の問題、そして、③最後に大規模災害により診療を継続できなくなった場合の問題です。
 他にも、様々な問題があると思われますが、今回はこの3つに絞って検討してみたいと思います。

 東日本大震災において、地震や津波による建物の倒壊によって、多数の人命が失われたことはマスメディアで多数報道されているところです。
 この震災の規模や発生原因については、現在専門家によって分析されており、その分析結果を待たなければならなりませんが、一般的に地震の災害について、まず考えなければならないのは建物の倒壊によって生じる人的被害の問題です。

 建物の所有者もしくは占有者(賃貸されている場合の賃借人)がまず考えなければいけない責任は、土地工作物責任という責任です(民法717条)。これは、土地上に存在する建物等の工作物に瑕疵(欠陥)があり、それを原因として他人に損害を与えた場合は、所有者(占有者がいる場合は占有者)が損害賠償責任を負うべきとするものです。
 具体的にいえば、診療所の建物に欠陥があって、それが原因で建物が倒壊・損傷し、地震当時に診療所にいた患者さんが死亡・負傷した場合には、診療所を開設している医師が損害賠償責任を負わなければならないということです。
安全な建物をどのように建てるべきなのか、そのためにはどのような基準を守るべきなのかについては、建築基準法という法律に規定があります。したがって、原則として建築基準法に適合する設計で診療所を建設している場合には、瑕疵(欠陥)がないということがいえるので、上記の損害賠償責任はありません。
 しかし、残念ながら平成に入ってからも、建築基準法に合致するという確認を得て建てられた建物でさえ、確かに設計図上は建築基準法に合致しているものの、現実に建築された建物自体は建築基準法の基準に合致しないというものが少なくありません。
 したがって、念のために建築を依頼した建築士さんに耐震性についての確認をしていただく方がよいかと思います。その上で、補強工事が必要ということであれば、補強工事を行うべきでしょう。
 なお、竣工当時は問題なかったとしても、経年変化によって建物に欠陥の発生することがあります。そして、欠陥が発生しているにもかかわらず、これを放置した場合は、責任を問われることになりますので、メンテナンスを怠らないことも肝要です。

  赤井・岡田法律事務所
京都市中京区新椹木町通竹屋町上る西革堂町184番地
                  オクムラビル2階
        TEL(075)257-6033
        FAX(075)212-3670
執筆責任者 弁護士 赤井勝治(京都弁護士会所属)
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# by motomame | 2014-06-12 09:00
 裁判例検討
  前回ご紹介した裁判例から、転医・転送義務の有無について検討すると、以下の要素を総合的に考慮して、転医・転送義務の有無が判断されていると考えられます。
① 患者の症状からみて、どのような疾患が考えられるか。
② その医師(医療機関)に期待される医療水準からみて、上記疾患の診断が可能か。
③ その医師(医療機関)が、その疾病を検査・治療する技術や施設を有しているか。
④ その検査法・治療法は当該患者に適応があるか。
⑤ 期待されている検査・治療が他の医療機関の医療水準となっているかどうか。
⑥ 現実に転送することが可能か(搬送できる状態か、転送先はあるかなど)。

 損害
 転医・転送義務による損害の範囲は、当該義務違反と結果との間に因果関係が認められるか否かによって判断されます。
 当然、結果との間に因果関係が認められなければ結果についての損害賠償は認められませんが、裁判例の中には、結果に対する因果関係が認められない場合にも、適切な診療を受ける機会が奪われたことによる慰謝料を認めたものもがあります。
 たとえば、神戸地裁姫路支部平成8年9月30日判決(判例時報1630号97頁)は、自転車運転中に転倒して頭部打撲等の負傷を負い、開頭手術を受けた患者が、脳ヘルニアにより死亡した事案で、当初患者を受け容れた病院が患者を転送する場合において、1箇所の収容見込みのない専門医療機関に連絡を取るのみで、他の専門医療機関には手続きをとらず、転医義務違反があったとされました。そして、医師の転医義務違反と死亡との因果関係は認められないとしたうえで、適切な転医措置により死期を遅らせ、適切な治療により症状を改善する機会と可能性を奪われたことに対する慰謝料として、患者本人に400万円、その妻及び子4人にそれぞれ100万円を認めました。

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# by motomame | 2014-06-05 09:00
 裁判例
  転医・転送義務については、次のような裁判例があります。
 ① 大阪高裁平成9年9月19日判決(判例時報1630号66頁)
患者が、吐き気や発熱を訴え、一般開業医を受診し、インフルエンザ様感冒(いわゆる「かぜ」)と診断され、経過観察となったが、症状が続くので、他の医療機関を受診したところヘルペス脳炎と判明した事案で、当該一般開業医は、「ヘルペス脳炎などその他の重大な脳の疾病も疑い、…ヘルペス脳炎などの治療に適した高次の医療機関に転送」する義務を怠ったと判示しました。
 ② 大阪高裁平成9年9月19日判決(判例時報1635号69頁)
平成3年当時、一般開業医が乳癌の患者に対し、一部の医師の間で実施されていた乳房温存療法について説明し、その治療法を実施している医療機関に転送する義務があったかどうかが問われた事案で、裁判所は、平成3年当時、乳房保存療法はまだ安全性の確立された術式とはいえないので、「(医師が患者に)乳房保存療法を受けさせるべく、他の医療機関に転送する義務があったということはできない」として過失を否定しました。
 ③ 東京高裁平成10年9月30日判決(判例タイムズ1004号214頁)
肝機能障害で約2年間診察をしていたにもかかわらず、医師が肝硬変などを見落とした事案で、裁判所は、「診察していた医師は、重篤な疾病ともいうべき肝硬変を疑った段階か、もしくはC型肝炎と判明した段階で、病態を正確に把握し、肝硬変への移行の有無を調べるため、専門医のいる病院での精密検査を指示すべきであった」として過失を認めました。
 ④ 大阪地裁平成10年10月21日判決(判例時報1702号125頁)
一般開業医が、患者に対し無菌性髄膜炎と診断したが、のちにウィルス性髄膜炎と判明した事案で、裁判所は、「ウィルス性髄膜炎を罹患している疑いの有無につき鑑別診断を行い、ウィルス性髄膜炎に罹患している可能性があると認められたときは速やかに抗ウィルス剤の投与による治療を開始すべき義務を負うということができ、鑑別診断及び治療に適した高次の医療機関へ転送し、鑑別診断のための脳波検査等の検査及び治療が受けられるよう適切な措置を講ずべき注意義務があった」と判示しました。
 ⑤ 最高裁平成15年11月11日判決(判例時報1845号63頁)
開業医から総合病院への転送が半日ほど遅れた急性脳炎の事案で、「急性脳症などを含む重大で緊急性のある病気に対しても適切に対処しうる、高度な医療機器による精密検査及び入院加療などが可能な医療機関へ患者を転送し、適切な治療を受けさせる義務があった」と判示しました。

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# by motomame | 2014-05-29 09:00
 転医、転送又は転院に関する義務の意義
 事案によって、医師の先生方が負う義務の内容は異なり、転医等を勧告、指示すれば足りるケースから、救急車を手配する等して転医先に患者を実際に搬送すべき義務を負うケースまで様々です。

 まずは、転医勧告義務と呼ばれるものがあります。
 当該医療機関での診察・治療継続と他の医療機関での診察・治療(転医・転送)との2つの選択肢があり、そのどちらにも医学的合理性がある場合には、医師は患者に対し、この2つの選択肢を提示・説明する義務を負い、患者自らの選択・決定に委ねる必要があります。このように転医勧告義務は、説明義務の一形態と捉えることのできるものです。

 また、この転医勧告義務とは別に、転医・転送義務と呼ばれるものがあります。
 もはや当該医療機関では手に負えない(当該医師に期待されている知識・技量や当該医療機関の施設では診断・治療ができない)患者であると判断した場合、医師は、患者を適切な医療機関に転送する義務を負います。医師は患者に対し、症状に見合った適切な医療を提供しなければならないので、転医・転送義務は当然に診療契約の内容になっていると考えられます。

 最高裁判所も、いわゆる未熟児網膜症の事案(平成7年6月9日判決・判例時報1537号3頁)において、「医療機関にはそれぞれ求められる医療水準があり、医師らがその医療水準に見合った知識を持たないために適切な治療を施せなかったり、その治療法の実施可能な医療機関に転医させるなどの適切な措置を採らなかったために患者に損害を与えた場合には、医療機関が責任を負わなければならない。当該医療機関が予算上の制約などの事情によりその実施のための技術・設備などを有しない場合には、これを有するほかの医療機関に転医させるなど適切な措置を採るべき義務がある」と判示して、転医・転送義務を認めています。

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# by motomame | 2014-05-23 10:31

医師の裁量(3)

 「医師の裁量」が問題となる具体的場面
  「医師の裁量」は、医師の医療行為全般について問題となりうるのですが、これまでに具体的に問題となっている場面としては、診断、治療方法の選択、治療措置の範囲・時期、患者への説明方法、告知、新療法の採否などがあります。

 また、近時、新療法の採否と「医師の裁量」が新しい問題となっています。新療法や試行的な治療行為を選択した場合における「医師の裁量」については、治療方法としての効用、危険性などが既に判明している通常の治療方法と同列に論じることはできません。学説においては、概ね医師の裁量を認めつつも、患者の意思決定がより重要であり、他の手段との比較考慮は厳格に行われるべきとされています。

 この点については、札幌地裁昭和53年9月29日判決があります(判例タイムズ368号132頁)。これは、精神症状に対する治療として、評価が定着していなかったロボトミー手術(前頭葉に侵襲を加える手術)を行った事案ですが、裁判所は、「適応性の選択に慎重を期し、かつ、他の療法を十分試みたうえで最後の手段として用いることという制約が存し」、「とりわけロボトミーのように手術がその適応性ないしは必要性において医学上の見解が分かれており、また、重大な副作用を伴うものである場合には手術を受けるか否かについての患者の意思が一層尊重されなければならない。」と判示しています。

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# by motomame | 2014-05-15 09:00