医師・医療従事者・医療機関の方々に対する法律事務所からの情報発信です。赤井・岡田法律事務所HP: http://www.akai-okadalaw.com


by 弁護士 赤井勝治
 前回の続きです。

 確実な診療報酬の回収のためにも、時効管理を適切に行う必要があります。

 最も有効な時効管理は、3年の時効期間が経過する前に、速やかに回収のための法的手続などを取ってしまうことです。

 これが難しい場合には、別途、時効中断のための措置を取っておく必要があります。

 時効中断とは、それまでの期間の経過をいったんご破算にしてしまう制度です。
 時効期間は、請求ができるとき(診療報酬では、通常個々の診療終了後になります)から進行していきますが、中断すると、中断までの期間経過はカウントされなくなり、この中断後に新たにカウントが始まることになります。

 この時効中断のための措置としては、後述する回収のための法的手続である支払督促や裁判のほか、債務の「承認」があります。

 「承認」とは、ここでは患者さんが診療報酬の支払義務があることを自ら認めることです。
 これについては、きちんと書面化しておく必要があります。
 よく使われるのは、支払いを猶予して欲しいという書面を書いてもらったり、分割払いの約束を書面でしてもらうことです。
 いずれも、その前提として、患者さん自身が診療報酬の支払義務があることを認めていることになります。

 それ以外にも、診療報酬の一部を支払ってもらうことも「承認」にあたる場合があります。
 ただ、この場合には、未払分の診療報酬全体の一部の支払いであることを明示して支払ってもらう必要があります。
 そうでないと、全額を支払ったつもりで残債務はないと思ったとの言い訳をされてしまうおそれがあり、その言い訳が認められると、「承認」にはあたらなくなってしまいます。

 このように、未払の診療報酬については、消滅時効期間も考慮したうえでの適切な管理が、回収に先だって重要となります。

  赤井・岡田法律事務所
京都市中京区新椹木町通竹屋町上る西革堂町184番地
                  オクムラビル2階
        TEL(075)257-6033
        FAX(075)212-3670
執筆責任者 弁護士 赤井勝治(京都弁護士会所属)
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# by motomame | 2014-07-17 09:00
 患者さんの医療機関に対する一部負担金の未払は今や社会問題化しています。

 一部負担金については、国民健康保険や健康保険において、保険者と被保険者との関係(公法上の債権債務関係)であるという側面がありますが、その窓口払いについては、医療機関と患者さんとの間の債権債務関係であると解されています。
 誤解を怖れずに単純化して言えば、医療機関は、患者さんに対して、一部負担金を診療の対価として請求することができるということです。
 以下、この一部負担金も含め、窓口で支払われる診療の対価等を単に診療報酬と呼ぶことにします。

 診療報酬を請求する相手方は、通常、診療契約の当事者である患者さん本人です。
 このほか、診療報酬について、医療機関が(連帯)保証人との間で、(連帯)保証契約を締結していれば、その(連帯)保証人も請求の相手方になります。

  (連帯)保証人をつけなければ診療をしないとすることは問題ですが、診療報酬の確実な回収のためには、患者さんや(連帯)保証人が任意に応じるのであれば、(連帯)保証人をつけてもらうことが望ましいと言えます。

 請求の方法としては、通常は、口頭や書面(請求書の発送)での請求が行われています。
 しかし、このような請求を繰り返し行っても、患者さんが一向に支払わない場合にはどうすればよいのでしょうか。

 そのまま放置しておくと、診療報酬債権は消滅時効により請求できなくなってしまうおそれがあります。

 それではここで、先に、消滅時効のお話しをしておきましょう。
 消滅時効というのは、一定期間の経過によって債権が消滅してしまう民事上の制度です。ただ、単に一定の期間が経過すれば、自動的に債権が消滅してしまうわけではなく、法律で定められた一定期間が経過した後に、債務者が消滅時効という制度を使うという意思を表示(これを援用と言います)してはじめて債権が消滅します。

 診療報酬については、民法170条で、消滅時効期間は3年と定められています。これは通常の債権の消滅時効期間が10年とされているのと比べて、その期間が短く、短期消滅時効と呼ばれています。
 このように診療報酬については、3年という短期消滅時効期間が定められているため、きちんとした管理(これを「時効管理」といいます)をしておかないと、すぐに消滅時効により請求ができなくなってしまうおそれがあります。なお、公立病院における診療報酬についても、この時効期間は同じ3年です(最高裁判所平成17年11月21日判決)。

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# by motomame | 2014-07-10 09:00
 前回に引き続き、証拠保全についてのお話しです。

 証拠保全手続は、証拠保全申立書を作成して裁判所に申立をするところからはじまります。
 そして、裁判所が証拠保全の決定を出した後、実際に裁判官と患者側代理人弁護士が医療機関に出向き、裁判所は、当該医療事故に関して、どのような診療記録があるのか、その有無・内容を確認し、証拠保全調書を作ります。
 その際、確認された診療記録は謄写(コピー)され調書に添付されます。
 患者側代理人弁護士は、後日、裁判所に対して、その証拠保全調書の謄写請求をして、必要な診療記録を入手することになります。

 一般に、証拠保全手続は、ある日突然、裁判所の執行官が当該医療機関を訪れ、「証拠保全決定書」を医療機関に送達し、当該決定書に記載されている検証時刻(送達から1~2時間経過した後とされることが多いようです)に、裁判官、裁判所書記官、患者側代理人弁護士がやってきて、裁判官から当該患者に関する診療記録一切の開示を求められるというものです。

 それでは、こうした証拠保全決定書が送達されてきた場合、医療機関としてはどのように対応すればよいでしょうか。

 証拠保全手続は、医療機関側に対して診療記録の開示に「協力」することが求められるのであって、医療機関側がこれを拒否しても過料が課されるなどするわけではありません。
 しかし、証拠保全手続で開示を拒否した診療記録が、後日、訴訟等で医療機関側の証拠として提出された場合には、改ざんされたのではないかとあらぬ疑いをかけられるなど、不利な取扱いを受けるおそれがあります。
 証拠保全手続の際に開示がなされていれば、後日、改ざんの有無について争われることがなくなりますので、その意味では、誠実に対応・協力することが肝要であるといえるでしょう。

 このように、証拠保全決定書に記載のある診療記録はすべて開示することが前提といえますが、決定書に記載のない診療記録(換言すれば、開示への協力が求められていない診療記録)まで開示する必要はありません。
 実際には、保全手続の最中に、そうした診療記録がたまたま発見された場合、患者側代理人弁護士から検証(提示・謄写して調書に添付)を求められることがありますが、医療機関側としてはこれを拒否することができます。
 ただし、拒否すれば、後日、再度証拠保全の申立てが行われるであろうと医療機関側が判断し、これに応じる場合もあります。

 なお、医療機関によっては、決定書に記載のあるなしにかかわらず、患者側代理人弁護士からの積極的な要求があるか否かにかかわらず、当該医療事故に関連すると思われる診療記録すべてを開示するという方針をとっているところもあります。

 前述のとおり、証拠保全手続は、ある日突然数時間前に実施されると告知される手続ですので、医療機関にとっては裁判官や患者側代理人弁護士の要請に応えるだけでも精一杯という状況に陥りがちです。
 しかし、証拠保全手続が後日の訴訟提起を見据えて行われ、保全手続の時点での医療機関側の対応が訴訟手続に影響を与えかねないものであることからすると、開示すべき診療記録の範囲はどこまでなのかという判断をしなければならない場合、あるいは、現場で判断を求められた場合などのために、医療機関側も証拠保全手続に代理人弁護士を立ち会わせることがベストの対応といえるでしょう。

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# by motomame | 2014-07-03 09:00
 医療事故が発生し、患者さん本人あるいはそのご家族の方などが弁護士に相談された場合、相談を受けた弁護士が、①治療行為にミスがあったか否か、②ミスと結果(死亡や後遺症)との間に因果関係があるといえるか否か、③ミスの内容と結果から、法律や過去の裁判例を検討したうえで、損害賠償請求が可能か否か、④損害賠償請求が可能であるとしてその金額はどの程度になるかなどの「見通し」を立てるためには、カルテ等の診療記録を入手し、検討することが不可欠となります。

 診療記録の入手については、従来は、証拠保全手続の方法によるというのが大半を占めていました。
 従前、診療記録は紙媒体であることが多かったため、改ざんのおそれがあり、患者側の弁護士としては、それを未然に防ぐため(あるいは、すでにされてしまった改ざんを早期に発見できるようにするため)、裁判所に申立をして、カルテ等をおさえて(保全して)もらう必要があったからです。

 もっとも、電子カルテの導入により、診療記録が改ざんされる危険性が低下し、また、患者さん本人やご家族からの請求があれば、カルテ等を開示する医療機関が増えてきました。
 このような状況の変化から、最近では、時間や費用を節約するために、ご本人やご家族にお願いして、診療記録の開示を直接請求していただくことも少なくありません。

 しかし、当該医療機関が紙媒体で診療記録を保存している場合には、患者側弁護士としてはカルテ等の改ざんを懸念しなければなりません。
 また、電子カルテを導入している医療機関が相手方となる場合であっても、当該医療機関が診療記録の全部あるいは一部の開示を拒否することもあります。
 さらに、「カルテ等の診療記録」といっても多種多様なものがあるため、直接請求していただくとしても、弁護士が「検討」するのに必要な診療記録をもれなく開示してもらうということは難しく、弁護士が実際に現場で診療記録を見ながら開示(コピー)の要否を判断しなければならない場合もあります。医療機関が一部の診療記録を隠匿する場合もないわけではありません。

 このように、カルテ等の必要な診療記録が任意に提出されないなどの場合に、患者側代理人弁護士は裁判所に対して証拠保全手続の申立を行い、裁判所から医療機関に出向いてカルテなどの診療記録を保全してもらうことになります。

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# by motomame | 2014-06-26 09:00
 前回は、地震による災害によって、医療機関が抱える可能性のある法的問題のうち、①建物などの倒壊・損傷によって患者さんに被害が発生した場合の問題について述べました。
 今回は、②以降についてです。

 停電や断水によって医療機器が使えなくなくなり、患者さんに症状悪化や死亡という損害が出た場合、どう考えればよいでしょうか。

 医療機関としては、患者さんとの間で診療契約を締結しておりますので、一定の水準以上の診療を提供する義務があり、それができなければ債務不履行として、損害賠償責任を負うことになります。

 ある医療機器について、停電や断水時にそれをバックアップする非常用電源や非常用水源などを兼ね備えていることが、同じ規模の医療機関において一般的であるといえるにもかかわらず、非常用電源・水源を兼ね備えていなかった場合には、問題となります。
 その場合、医療機器が、電源や水源がなくなって稼働しなくなり、現に治療中の患者さんの容態が悪化したり、死亡した場合には債務不履行による損害賠償責任を負うことになります。
 また、バックアップする機能がついているにもかかわらず、それを活用しなかった場合にも同様の責任を問われることがあり得ます。
 したがって、医療機関としては、停電時や断水時の医療機器の稼働を維持するためにはどうすればよいのかについて普段から検討を怠らないようにすべきでしょう。

 最後に、大規模災害により診療が継続できなくなった場合です。

 医療機関としては、診療が継続したくても、地震などにより設備が損壊したり、スタッフを確保できなくなって、診療継続が困難となったとき、患者さんの診療をお断りすることが、法的には問題はないかということです。

 医師法19条には、「診療に従事する医師は、診察治療の求があった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」と規定されていますが、大規模災害によって診療継続ができない場合は、この正当な事由に当たると考えられるので、診療を拒んでも医師法違反にはならないと考えられます。

 大規模災害はいつ起こるか分かりませんが、ある程度の備えをすることによって被害を軽減することはできるものです。
 普段からどのように防災の備えをしておくのかについて、この機会に一度お考えいただければと思います。 

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# by motomame | 2014-06-19 09:00