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by 弁護士 赤井勝治
 近時、虚偽診断書作成のニュースが世間を騒がせていましたが、今回は、虚偽の診断書を作成した場合、どのような罪を問われるかについて述べたいと思います。

 虚偽診断書の作成は、文書偽造罪の一種として刑法に規定されています。

 そもそも文書偽造罪が処罰されるのは、文書に対する関係者の信用を保護するためとされています。
 そして、文書に対する信用の中核は、その文書がそれを作成したとされる名義人によって真実作成された点にあると考えられています。
 そのため、原則として、文書偽造罪は、作成名義人以外の者が、権限なしに、その名義を用いて文書を作成した場合に成立するものとされています。

 ただし、これには例外があります。

 まず一つ目としては、公務員が職務上作成する文書(公文書)についてです。
 この公文書は、その内容の真実性に対する信用まで保護する必要があることから、作成権限のある公務員が内容虚偽の文書を作成した場合にも処罰されます(虚偽公文書作成罪、刑法156条)。

 例外の二つ目としては、医師が公務所に提出すべき診断書等についてです。
 この公務所に提出すべき診断書等についても、公文書と同様、その内容の真実性に対する信用まで保護する必要があることから、作成権限のある医師が内容虚偽の公務所に提出すべき診断書等を作成した場合にも処罰されます(虚偽診断書等作成罪、刑法160条)。

 医師が、虚偽診断書を作成した場合には、上記のいずれかの罪に問われる可能性があります。

  赤井・岡田法律事務所
京都市中京区新椹木町通竹屋町上る西革堂町184番地
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        FAX(075)212-3670
執筆責任者 弁護士 赤井勝治(京都弁護士会所属)
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# by motomame | 2017-08-10 09:00
 今回も「裁判所の判断」の続きからです。

 当時、便潜血検査が下部消化管からの出血の有無を診断するための検査方法として広く行われており、大腸癌の第一次的スクリーニング方法としてある程度の有効性が認められており、日本病院会も昭和59年4月以降は人間ドックにおいて便潜血検査を消化管の疾患の検査として行うよう指導するとともに、指導基準を定めて、陽性反応(ワンプラス)が出た場合には3か月後に再検査を行うよう指導していたのであるから、被告病院が実施した受診者に対する便潜血検査においてワンプラスの結果が出た以上、他の検査結果等によって病的出血の可能性を完全に否定できる等の特段の事情がない限り、病院には受診者にその検査結果を告知するとともに、病的出血か否かを確定するために再検査あるいは精密検査を受診するよう促すべき義務があったものというべきであり、それを怠った病院には過失があるといわざるをえない。

 病院がワンプラスを異常とは判断しない基準を採用していたことは、当時人間ドックに対し一般的に期待されていた検査方法を病院の独自の判断で変更したものというほかはなく、医学的にはそれなりの合理性があるものとしても、それが実施医療機関の裁量の範囲内にあると認めることはできない。

 病院が独自の見地から、ワンプラスを異常とは判断せず、受診者に対し再検査あるいは精密検査の受診を促さなかったことは、少しでも異常を疑わせる兆候があればこれを被検者に告知し、再検査あるいは精密検査の受診を促すべき実施医療機関に課せられた注意義務に違反するものであるから、病院には、実施医療機関として負うベき注意義務を怠った過失があるというベきである。


 この裁判例からすれば、人間ドックを実施する医療機関や医師は、受診者に対し、実施する際の医療水準に照らし、疾病発見に最もふさわしい検査方法を選択するとともに、疾病の兆候の有無を的確に判断して被験者に告知し、仮に異常かあれば治療方法、生活における注意点等を的確に指導する義務を有するということになるものと考えられます。

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# by motomame | 2017-08-03 09:00
 前回の「裁判所の判断」の続きです。

 ところで、人間ドックの受診者は通常検査内容について殆ど知識を有していないうえに、検査内容について取捨、選択できず、通常実施医療機関側の決定した検査内容を一方的に受容せざるをえないのが実情であり、さらに人間ドックは長期にわたる継続的受診による健康管理を予定しており、その間には複数の医療機関における受診も予想されることを考慮すると、実施医療機関によって検査項目、検査方法及び判定基準が大幅に異なるのは好ましいことではない。

 そして、そのような見地から健保連は前記短期人間ドック契約を締結し、指導基準を定めて指導していたのであるから、被保険者である受診者と実施医療機関との間で締結される個別の人間ドック診療契約においても、右短期人間ドック契約及び指導基準に従った検査を行うことが当然の前提とされていたと解するべきである。

 したがって、合理的な理由がないのに右契約において定められた検査項目を実施せず、あるいは指導規準において定められている検査方法・判定基準を採用しないことは、原則として実施医療機関の裁量の範囲を逸脱し許されないと解するのが相当である。

 なお、確かに、人間ドックは病気の自覚症状のない健常者を対象に行われるもので、しかも多くは勤労者を対象としているので、被検者にできるだけ時間的、精神的、経済的負担をかけないで実施する必要性があり、そのため、人間ドックは、全身的な検査を一日又は一泊程度で行うのが通常であること等の理由から、その検査方法、検査内容において、特定の疾病発見のための検査とは異なった限界が生ずることもまたやむを得ないというべきではあるが、判定基準の選択においてはそのような要請は認められず、また、人間ドックは相当程度の費用を支払ってでも受診しようという者が自発的に受診するものであり、いわゆる集団検診のような大量処理の必要性も薄いから、費用面や効率面から生ずる限界を重視すベきではない。

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# by motomame | 2017-07-27 09:00
 以上のような、受診者側の主張及び病院側の反論を踏まえ、裁判所は、次のように判断しました。

 人間ドックは、疾病、特に癌や糖尿病といった成人病の早期発見と、適切な治療を受けさせるためのアドバイスを主たる目的として行われるものであり、受診者も当時の医療水準における適切な診断とアドバイスを期ヘして人間ドック診療契約を締結するのであるから、人間ドックを実施する医療機関としては、当時の医療水準に照らし、疾病発見に最もふさわしい検査方法を選択するとともに、疾病の兆候の有無を的確に判断して被験者に告知し、仮に異常かあれば治療方法、生活における注意点等を的確に指導する義務を有するというべきである。

 また、人間ドックはいわゆる集団検診とは異なり、健康管理に高い関心を有する者が自発的に受診するものであり、受診者は少しでも異常を疑わせる兆候が存在する場合にはその告知を受け、精密検査を受診することを希望しているのが通常である(それが、癌の存在を疑わせる兆候であればなおさらである。)から、実施する医療機関は、異常を疑わせる兆候があればこれをすべて被験者に告知し、診断が確定できない場合には精密検査あるいは再検査を受けて診断を確定するよう促す高度の注意義務を有するというべきである。

 また、人間ドックにおける検査項目、検査方法及び判定基準については、健保連と日本病院会の間において短期人間ドック契約が締結され、37の検査項目の実施を定め、さらに日本病院会が10の検査項目を追加した47の検査項目で実施するよう実施指定病院に対し指導するとともに、短期人間ドック指導規準を定めて指導していた。

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# by motomame | 2017-07-20 09:00
 これに対し、病院側は、次のように反論しました。

 人間ドックは、傷病等に対する治療行為を前提とした検査とは異なり、健常人を対象とした健康診断であるから、疾病の早期発見という課題の他に、受診者に時間的、経済的負担をなるべくかけずに検査を行い、病気でないものを病気でないと正しく判断し、健常人に不必要な経済的、精神的負担をかけてはならないという課題を有する。

 そして、この両課題を実現するためにいかなる検査方法を取り、いかなる判定基準を設定するかという点に関しては、検査を実施する病院の広い裁量に委ねられていると解すべきである。

 当時便潜血検査は生化学的方法によって行われていたが、生化学的方法はヒト以外の血液にも反応してしまうため、厳格な食事制限を行わない限り異常がなくとも陽性反応が出てしまうこと(これを「偽陽性」という。)が多い。
 しかしながら、人間ドックにおいては、前記のとおり受診者にできるだけ負担をかけないという観点から、厳格な食事制限を行うことは不可能である。
 そこで、当時病院では、人間ドックにおける大腸癌検査は精度の高い大腸内視鏡検査によって行うこととし、便潜血検査は下部消化管のうち特に小腸からの出血の有無を調べるために行っており、大腸癌発見を目的とはしていなかった(病院は受診者に対しても大腸内視鏡検査の受診を勧めたが、同人は受診しなかった。)。

 また、当時病院において用いられていた便潜血検査の方法は、生化学的方法のうちグアヤック法と呼ばれるもので、その試薬としてはシオノギBを用いていたところ、この検査方法は偽陽性率が高く、ワンプラスを陽性と判断すると本来異常のない者に対し不必要な負担を強いることとなり、前記人間ドックに課せられている課題に照らし適切とは考えられなかったため、病院では、ワンプラス以下を異常とは判断せず、ツープラス以上を異常と判断する判定基準を設けていた。

 このように、病院がワンプラスを異常と判断しない判定基準を設けていたことは、人間ドックの目的に照らし合理的なものであり、医療機関の裁量の範囲内といえるものである。

 そして、病院は、この判定基準に照らし受診者の検査結果を異常とは判断しなかったのであるから、受診者に精密検査等を指導しなかったことについて病院には何ら過失はない。

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# by motomame | 2017-07-13 09:00