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by 弁護士 赤井勝治

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 今回は、このテーマの最終回です。

 4回にわたって、過去に起きた福島・大野病院事件について、事件の概要やこれに対する私の意見などを述べてきました。

 前回は、医療行為に対する刑罰権の発動は慎重に行われることが強く要請されるべきである旨を述べました。
 これが安易に行われると、医療の萎縮効果を招き、また、責任回避のためのたらい回しなどの弊害発生のおそれがあると考えられるからです。

 このように慎重さは要請されるべきですが、既に述べているように、私は、医療行為であるという理由だけで、業務上過失致傷罪の適用を控える必要はないと考えています。

 福島・大野病院事件では、県立大野病院医療事故調査委員会報告書の記載、すなわち、調査結果として「出血は子宮摘出に進むべきところを、癒着胎盤を剥離し止血に進んだためである。胎盤剥離操作は十分な血液の到着を待ってから行うべきであった。」などとされていた点に、検察官が影響を受けた可能性も考えられました。

 もし仮に、その影響によって、慎重に十分な検討が行われていなかったとすれば、問題です。

 群馬大学医学部附属病院のケースについても、既に述べたように、過失があったと判断した内容の事故調査報告書が公表されています。

 今後、担当医師の刑事責任が問題とされる可能性がありますが、その場合には、捜査機関の対応に注目したいと思います。
 慎重に十分な検討を加えたうえで、適切な刑罰権の行使が行われることを期待します。

  赤井・岡田法律事務所
京都市中京区新椹木町通竹屋町上る西革堂町184番地
                  オクムラビル2階
        TEL(075)257-6033
        FAX(075)212-3670
執筆責任者 弁護士 赤井勝治(京都弁護士会所属)
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by motomame | 2015-04-30 09:00
 前回は、福島・大野病院事件において、検察官による十分な検討が加えられていれば、そもそも起訴をせずに不起訴処分とすることも考えられた事案であるという意見を述べました。

 今回は、その続きです。

 私は、医療行為であるという理由だけで、業務上過失致傷罪の適用を控える必要はないと考えています。
 
 しかしながら、医療行為といっても様々なケースがあり、本件のような医師の専門的な知見に基づく判断の当否が問われるような事案においては、捜査機関にはより慎重な検討が要求されるものと考えます。

 もとより医療行為には患者さんの生命身体に対する危険がつきものであり、しかも、医師はその時々で専門的知見に基づく迅速な判断が求められます。

 そういった意味で、医療行為については、医師に一定の裁量が認められてしかるべきであり、その裁量が社会的な相当性を逸脱していない限り、その裁量の範囲内であれば当・不当の問題は生じたとしても、安易に刑事責任が課されるようなことはあってはならないと思います。

 そうでなければ、医師は結果責任をおそれるあまり、リスクのある治療行為や先進的な医療行為を行うことを躊躇し、従来から行われている無難な治療行為に終始することとなり、結果的に医療技術の進歩を妨げるなどの弊害が生じかねません。

 また、責任を回避するために、より高次の医療機関へのたらい回しなどの問題も発生することになります。

 このように、医療行為に対する刑罰権の発動は慎重に行われることが強く要請されます。

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執筆責任者 弁護士 赤井勝治(京都弁護士会所属)
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by motomame | 2015-04-23 09:00
 前回までに、福島・大野病院事件において、検察官が起訴した控訴事実の概略とこれに対する裁判所の判断、すなわち、担当医師の注意義務違反(過失)を否定したというところまでを説明しました。
 今回は、その続きです。

 刑事裁判では、犯罪の成立を証明する責任は検察官にありますので、結果的に、本件では検察官が担当医師に過失があったことを証明できなかったことになります。

 ここでの過失の有無は、当時の医学的準則に反していたかどうかが基準となることから、検察官は医学文献や医師の鑑定による証明を試みましたが、用手剥離開始後に癒着胎盤が判明した場合の臨床例の提示ができなかったなど、癒着胎盤であると認識した場合には直ちに胎盤剥離を中止して子宮摘出に移行することが本件当時の医学的準則であったとの証明ができませんでした。

 この点は、元検事であった立場から言わせてもらえば、犯罪が成立するための重要なポイントですので、当然に起訴をする段階で十分に検討が加えられていてしかるべきであったと思います。

 本件では、担当医師の逮捕までに1年近くの時間があり、その間に福島県の事故調査委員会によるカルテ等の証拠保全や関係者による事情聴取も行われていたのですから、十分に検討を加えることは可能であったと考えられます。

 もし、十分な検討が加えられていれば、そもそも起訴をせずに不起訴処分とすることも考えられた事案であると思います。

 さらに言えば、担当医師を逮捕する必要性もなかったのではないかとさえ考えられるところです。

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執筆責任者 弁護士 赤井勝治(京都弁護士会所属)
 
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by motomame | 2015-04-16 09:00
 前回の続きです。

 福島・大野病院事件で、検察官が起訴した事実(公訴事実)の概略は、次のとおりです。

 担当医師は、胎盤と子宮を用手剥離しようとして胎盤が子宮に癒着していることを認識したが、このような場合に胎盤の剥離を継続すれば、大量に出血し患者さんの生命に危険の及ぶおそれがあった。
 したがって、担当医師は、直ちに胎盤の剥離を中止して子宮摘出手術等に移行すべきであったのにこれをせずに、クーパーを用いて剥離行為を継続したことが過失にあたり、業務上過失致死罪が成立する(今回は医師法21条違反の点には触れません)。

 裁判では、多岐にわたる争点が争われました。

 裁判所は、担当医師の剥離行為と患者さんの死亡との間に因果関係を認めました。
 また、裁判所は、担当医師には剥離行為を継続すれば患者さんが死亡するかもしれないと予見する可能性があり、直ちに剥離を中止して子宮摘出に移行することは可能であったし、そうすれば死亡という結果を回避することも可能であったと判断しました。

 しかしながら、検察官が主張・立証するように癒着胎盤であると認識した場合には直ちに胎盤剥離を中止して子宮摘出に移行することが本件当時の医学的準則であったとは認められず、担当医師には胎盤剥離を中止する義務があったとは認められないとして、注意義務違反(過失)を否定しました。

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by motomame | 2015-04-09 09:00
 本年3月3日に、群馬大学医学部附属病院が、腹腔鏡下肝切除術事故調査報告書(平成27年2月12日付け)を公表しました。
 同報告書では、平成22年から平成26年にわたって、同病院において行われた腹腔鏡を用いた肝臓切除手術の術後、相次いで8名の患者さんが亡くなられた医療事故について、その8例全てについて、過失があったと判断したとしています。

 これらの医療事故については、弁護団も結成され、今後、担当医師に対する刑事処分を求めることも検討する旨が報道されています。

 今回は、少し古くなりますが、同じく医療事故における医師の刑事責任が問題となった福島・大野病院事件について、述べたいと思います。

 この事件については、平成20年8月20日に第一審判決があり、その後検察側が控訴を断念したため当該判決が確定しており、その判決文を入手して、検討をしております。

 事案の概要は次のとおりです。
 本件は、全前置胎盤患者(妊娠36週6日)に対し、帝王切開術を施術した医師が、胎盤の用手剥離開始後に、癒着胎盤であることが判明し、用手剥離が困難となったことから、クーパーを用いて剥離を継続したため、患者さんが大量出血による出血性ショックで亡くなったという事案です。

 そして、その後、1年近く経過した平成18年2月18日に、担当医師が、業務上過失致死、医師法違反の被疑事実で警察に逮捕されました。

 その後、担当医師は、上記の被疑事実で、福島地方裁判所に起訴されました。

 そして、平成20年8月20日に判決の言い渡しがあり、結果は、無罪でした。

 判決の内容について、詳しくは、医療判例解説10月号(医事法令社)に登載されていますので、そちらをご参照ください。

  赤井・岡田法律事務所
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by motomame | 2015-04-02 09:00