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by 弁護士 赤井勝治

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 前回は、裁判所が円滑に鑑定人を選任しようとするのであれば、少なくとも前回述べた①~③のようなネガティブな要素を排除する必要があるというところまででした。
 その続きです。

 ①(時間と労力をとられ、精神的負担が大きすぎる)については、従来から、鑑定といえば、一人の鑑定人が、膨大な裁判記録を精査し、鑑定意見を書面にして提出するというのが一般的なやり方です。

 しかし、このやり方では、文章で説明することが難しいことも少なからずあり、鑑定書という医師が日常の業務で作成することのない書面の作成を強いられ、場合によっては鑑定人として法廷で説明を求められたりするため、鑑定人の負担感がきわめて大きいという問題点がありました。

 たとえば、血管や臓器などの位置関係や画像の読影が問題となるような事案では、鑑定人が画像を診ているその場で所見を説明してもらえれば、現実の医療行為に近いシチュエーションで鑑定人の意見が聴けるという利点があるといえます。

 そこで、最近では、画像の読影が問題となるような事案においては、鑑定人に鑑定書の作成・提出を要求せず、実際に画像を読影して得られた所見を口頭で説明してもらい、それを鑑定意見とする鑑定方式が採用されることも出てきました。この場合、鑑定人の説明を、裁判所ではなく、鑑定人の病院で聴くという方法で行うことによって、鑑定人の負担を軽減する工夫もなされています。

 また、鑑定人によって鑑定結果に違いが生じてしまうような事案であったり、一人ではなく複数の鑑定人を選任し、複数の鑑定人らの議論を通じて問題点を検討することが事案の解明により資すると考えられる事案については、複数の鑑定人を選任して、それぞれに鑑定書を作成してもらったり、複数の鑑定人に共同で鑑定書を作成してもらうという工夫もなされています。

 その他、鑑定人の物心両面の負担を軽減する工夫としては、(ア)争点整理を徹底し、鑑定が必要な事件を絞ること、(イ)電話会議、テレビ会議を活用することなどがなされています。

  赤井・岡田法律事務所
京都市中京区新椹木町通竹屋町上る西革堂町184番地
                  オクムラビル2階
        TEL(075)257-6033
        FAX(075)212-3670
執筆責任者 弁護士 赤井勝治(京都弁護士会所属)
 
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by motomame | 2014-12-25 09:00
 民事訴訟における「鑑定」は、民事訴訟法に規定されている手続のひとつであり、専門性の高い分野について、特別の学識経験を有する第三者から意見を求めるものです。

 医療訴訟においては、医学という専門性の高い分野が問題となりますので、特別の学識経験を有する専門家たる医師を鑑定人として選任し、その意見を求めることが、他の訴訟より多いのが実情です。

 医療訴訟は年々増加しており、それに伴い鑑定の必要性も高まっているといえるでしょう。
 他方で、医療訴訟は、地方裁判所に係属している民事訴訟事件全体の平均と比べて、約4倍もの審理期間がかかっているとの批判がなされています。
 そして、その最たる原因として、鑑定人の選任に時間がかかりすぎること、また、その後の鑑定書提出にも長時間を要することが指摘されています。

 それでは、鑑定人の選任に時間がかかりすぎるのは、なぜなのでしょうか。

 裁判所から鑑定人になって欲しいとの依頼があっても、これを引き受けることについて、医師からは、
①時間と労力をとられ、精神的負担が大きすぎる
②法廷で人格攻撃などの質問をされ、不快な思いをした経験がある(ないしは、そういった不快な思いをするのが嫌だ)
③何をどのように鑑定すればいいのかが分かりにくい
などといった不満をよく耳にします。

 裁判所が円滑に鑑定人を選任しようとするのであれば、少なくとも①~③のようなネガティブな要素は、これを排除する必要があります。

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by motomame | 2014-12-18 09:00
 前回の続きです。

 医療機関の安全配慮義務が問題となった裁判例としては、以下のようなものがあります。

(1)脳梗塞の治療及びリハビリテーションのために入院中の患者が、病院内階段の2階と3階の間の踊り場に設置されていた窓から転落し、頭蓋骨骨折、脳内出血及び慢性硬膜下血腫の傷害を負い、意識不明の重篤な症状に陥り、医療機関に対して不法行為に基づく損害賠償が請求された事案。

 裁判所は、本件事故当時、患者の多発性脳梗塞による見当識障害自体は治まりつつあったことが認められ、病院に入院した当時の見当識障害があった時期から本件事故当日まで、階段を下りようとしたり、実際に本件階段を下りたことは一度もなく、病院から逃げ出そうとしたり、窓から飛び降りようとするなどして自殺を図ったり、自暴自棄になったりしたことは一度もなかったことが認められる。また、患者は、本件事故当日、夕食後以降2回にわたって、廊下に出て来て、リハビリテーションをしようとしたが、看護師に発見、注意され、これに従って病室に戻っていること、看護師は、巡回した際に、患者がベッドに座っていたのを認めて話しかけ、ベッドに臥床させたこと、患者は、同日夜、ややそわそわと落ち着きがない様子であったが、不穏、見当識障害はなく、看護師の指示には素直に従っていたこと、患者は、本件事故当日もリハビリテーションとして廊下内で数メートルの平面歩行をしたのみで、一度も階段を下りたことがなかったことが認められるとの事実を認定しました。
 そのうえで、各認定事実によれば、看護師が患者の臥床を確認したわずか2、3分後に、患者が、病室から抜け出し、独力で階段を下りて、踊り場に行き、窓のクレセント錠による施錠を開錠し、バーを越えて、窓から外に出ようとするという異常な行動をとることは、看護師及び医療機関において、到底予見不可能であったといわなければならないとし、患者のかかる異常な行動を防止できなかった点について、医療機関に安全配慮義務違反その他の過失があったとは認められないと判断して、安全配慮義務違反を否定しました。

(2)医療機関の開設運営するグループホーム(痴呆対応型共同生活介護施設)に入居していた患者が、入居中に、ベッドから転落して負傷したとして、不法行為又は債務不履行に基づき損害賠償が請求された事案。

 裁判所は、患者が施設に入居したわずか2日後日に、患者は、就寝していた際にベッドから転落して傷害を負っていること、それを契機として、本件において転落事故再発防止のための具体的な有効策が施された形跡はうかがえないこと、その7日後にも、患者が再度ベッドから転落しているがその後も転落事故再発防止のための抜本的な有効策は講じられていないこと、その後も、夜間に2回、患者がベッドから落ちそうになっていることが発見されているが、それにもかかわらず、転落防止策について、有効な策は何ら講じられていないことなどの経過を経て本件事故が発生したとの事実を認定しました。
 そのうえで、これらの認定事実によれば、医療機関には契約上負っている安全配慮義務等の違反が認められると判断して、債務不履行責任に基づき6,000万円強の支払を命じました。

 以上の裁判例を見れば、裁判所が、事故発生に至る経緯や、それまでに同種事故の発生があったかどうか等の諸事情に照らして、医療機関が当該事故の発生を予見することができたか否か、これを回避するための相当な措置を講じていたか否かを考慮して、安全配慮義務違反の有無を判断していることがお分かりいただけると思います。

 これらを踏まえれば、少なくとも、一度病院施設内で転倒事故などがあった場合には、そのまま放置せずに、その原因を究明して、できる限りの再発予防措置は講じておくべきだと言えます。

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by motomame | 2014-12-11 09:00
 今回は、医療機関が負う患者さん等の安全を確保する義務(安全配慮義務)について述べていきます。

 少し前に、福岡市で、多数の入院患者さんが死傷されるという病院火災がありました。この件でも、医療機関が負う患者さんの安全を確保する義務が問題になることが考えられます。

 安全配慮義務は、最高裁判所の判決(昭和50年2月25日判決)によって確立され、その内容については、「ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務」であるとされます。

 典型的なものとしては、労働契約における使用者の労働者に対する安全配慮義務が挙げられ、この点、平成20年3月に施行された労働契約法では、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」(同法第5条)という形で明文化されました。

 そして、診療契約においても、この安全配慮義務が認められ、医療機関は、患者さんや医療施設の利用者に対して、生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務を負います。

 診療契約において、この安全配慮義務が問題となる例として分かり易いのは、病院の施設内での転倒事故やベッドからの転落事故です。
 一般的に言えば、医療機関は、病院の施設内での転倒事故やベッドからの転落事故が発生しないように配慮する義務を負っているということになります。
 医療機関が、この安全配慮義務に違反して患者さんなどに負傷が生じた場合には、医療機関は損害賠償義務を負います。

 では、どのような場合に、安全配慮義務に違反したと判断されるのでしょうか。
 この点、その判断はケースバイケースと言わざるを得ず、個別具体的な事案に則して判断するほかはありません。
 一般論としては、事故にあった方の具体的な状況(年齢、直前の行動等)や事故発生場所の設備状況、これまでに同種の事故発生があったかどうかなどの諸事情に照らして、医療機関が当該事故の発生を予見することができたにもかかわらず、これを回避するための相当な措置を講じていなかった場合に、安全配慮義務に違反したと判断されることが多いと考えられます。

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by motomame | 2014-12-04 09:00