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by 弁護士 赤井勝治

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 前回は、医療事故が発生し、医療機関側が患者側に対する損害賠償責任を負わなければならない場合の「損害」のうち、①治療費、②付添看護費、③入院雑費、④休業損害までを説明しました。

 今回は、残りの⑤逸失利益、⑥慰謝料、⑦葬儀費について説明します。

 ⑤の逸失利益について
 (1)死亡事案の場合
 この場合の逸失利益は、医療事故の被害にあった患者が生存していたならば得られたであろう収入(年金を含む)相当額から、その間の生活費相当額を控除した金額をいいます。
 医療事故にあった患者の正確な逸失利益を算定することは事実上不可能であり、裁判においては、おおむねつぎのような計算式を用いて逸失利益が算出されます(そのため、示談交渉の段階でも、同様の計算式を用いて算出した金額が基準とされています。)。

 計算式:基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数

 ここに「基礎収入」とは、原則として医療事故被害患者の事故前の収入額をいいます。
 患者が死亡した場合には、この収入額から生きていたならば支出していたであろう生活費を控除する必要があります。

 「生活費控除率」とは、この生活費を控除するために掛け合わせる数値のことをいい、年齢・性別、家庭内における立場(独身、一家の支柱、主婦など)によって、30%ないし50%程度とされています。

 「就労可能年数」とは、被害患者が67歳になるまでの期間又は平均余命年数の半分の期間(高齢者の場合)をいいます。

 「ライプニッツ係数」とは、将来の損害額が一括で支払われることから、将来的な利息分を控除するときに用いる係数のことをいいます。

 (2)死亡事案でない場合
 この場合には、医療事故の被害に遭った患者が医療事故により後遺障害を発症し、その影響で労働能力が低下したことにより、本来であればその患者が将来にわたり得られたであろう収入のうち、得られなくなった金額のことをいいます。
 裁判においては、おおむねつぎのような計算式を用いて逸失利益が算出されます(死亡事案の場合と同様、示談交渉の段階でも、当該算出額が基準とされています。)。

 計算式:基礎収入×労働能力喪失率×就労可能期間に対応するライプニッツ係数

 ここに「労働能力喪失率」とは、交通事故における損害賠償額の算定の際に用いられている後遺障害等級に応じた労働能力の喪失率(1級~3級:100%、4級:92%、5級:79%、6級:67%、7級:56%、8級:45%、9級:35%、10級:27%、11級:20%、12級:14%、13級:9%、14級:5%)のことをいいます。

 ⑥の慰謝料について
 医療事故は、裁判に至った事例だけを見ても、説明義務違反、採血による血腫や神経損傷、診断の見落とし、薬品の処方間違いや処置の間違い、投与薬の間違いや観察不足など「注意義務違反の態様」は多岐にわたり、患者が後遺障害を発症しないで済んだケースから、死に至ってしまったケースまで「結果」もさまざまです。
 慰謝料は、被害を被った患者の精神的損害(精神的苦痛)を金銭に評価して算出されるものであり、数十万円から数千万円とその医療事故の内容(死亡事案か否か、後遺障害の有無・程度、患者の地位・立場、注意義務違反の内容・程度などの諸事情)に応じて千差万別であるというのが実際のところです。

 ⑦の葬儀費については、裁判では、葬儀の規模に関係なく、おおむね150万円以内の実費が損害として認められることが多いようです。

  赤井・岡田法律事務所
京都市中京区新椹木町通竹屋町上る西革堂町184番地
                  オクムラビル2階
        TEL(075)257-6033
        FAX(075)212-3670
執筆責任者 弁護士 赤井勝治(京都弁護士会所属)
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by motomame | 2014-11-27 09:00
 医療事故が発生し、医療機関側が患者側に対する損害賠償責任を負わなければならない場合、その賠償しなければならない「損害」は、債務者である医療機関側に過大な負担を課さないようにとの趣旨から、法律上、社会的に見て、医療機関側の注意義務違反と相当な因果関係の範囲内にあるものに限定されています。

 注意義務違反と相当な因果関係の範囲内にある「損害」としては、①治療費、②付添看護費、③入院雑費、④休業損害、⑤逸失利益、⑥慰謝料、⑦葬儀費などがあります。

 それぞれの「損害」の額の計算は、実務上、裁判例が多数蓄積されている交通事故における「損害」の計算方法に準じて行われています。

 ①の治療費は、原則として、医療事故の被害にあった患者に対し、事故による症状の改善を期待できる治療ができなくなった(症状固定)時点までに実際にかかった治療費をいいます。
 死亡事案であれば、患者が死亡に至るまでの治療費がこれにあたります。
 死亡事案でない場合には、上記の症状固定をしない限り、治療費金額を確定できませんから、それまでは治療費の賠償請求は原則としてできません。
 もっとも、示談交渉に際しては、将来確実に支払うべき治療費(諸事情を考慮しても「払い過ぎにならない」範囲の治療費)について、交渉の途中であっても一時金(内金)として支払われることがあります。

 ②の付添看護費は、患者の症状がとくに重く、看護師による一般的な看護では足りないと客観的に判断される場合、職業付添人や近親者付添人の費用が損害として認められることがあります。

 ③の入院雑費は、裁判においては、入院期間中日額1500円の入院雑費が認められることが多いですが、患者の症状によりそれ以上の特別な支出が必要な場合には、その支出に関しても損害として認められることがあります。

 ④の休業損害は、患者が医療事故に遭い、これを原因とする休業によって発生した収入の減少部分をいいます。
 給与所得者の場合、原則として、医療事故前の収入を前提に、当該事故が原因で休業したことにより、実際に減少した収入額及び、有給休暇を使用して治療等をしたときにはその有給休暇相当分として1日分の収入額に有給休暇日数を乗じた金額が損害として認められます。
 事業所得者の場合、原則として、医療事故により直接生じた実際の収入減少額等が損害として認められることになります。
 専業主婦(主夫)の場合には、医療事故前の具体的収入のないのが通常ですが、一般的な平均年収額などを用いて休業損害額(家事に従事できなかったことによる損害額)が算出されることが多いようです。

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by motomame | 2014-11-20 09:00
 前回は、紛争に備えてのリスクマネジメントとして、書面化しておくということことについてお話ししました。

 今回は、この書面化に関連して、少し診療録(カルテ)の記載についても触れておきたいと思います。

 診療録の記載は、診療内容だけでなく、診察時における「言った、言わない」の根拠とされることが多くあります。
  診療録の記載については、いつ開示をしても良いように、診察内容や行われた診療行為の内容、患者さんに説明した内容、及び患者さんからあった訴えの内容を区別して、あとで読んで分かり易いように、できるだけ詳しく記載いただくというのが理想です。

 毎日多くの患者さんを診察していて、毎回毎回そんなに詳しい記載などしていられないというのが現状であろうと思います。
 しかしながら、少しの手間を惜しまれたがゆえに、後日紛争に巻き込まれ、その際に負担される労力の程度を考えれば、ここは少しだけ頑張っていただければというのが正直なところです。

 また、近時、電子カルテが多くなってきている関係で、電子カルテのシステムを導入されている場合には問題になることは少ないのですが、そうでない場合には、あとで診療録を改ざんできないような仕組みになっているか否かも重要なポイントとなります。
 特に、あとで診療録を容易に改ざんできるような仕組みであると、現実にはそのようなことがなかったとしても、改ざんされているのではないかという不要な疑いをもたれることにもなりかねません。

 ここまでは書面化について述べてきましたが、最後に、録音についても触れておきます。

 「言った、言わない」という点を明確にするという意味では録音というのは有力なアイテムです。
 ただ、このようなお話をすると、多くの場合には、医師と患者さんとの信頼関係からすれば、そこまでする必要はないのではないかという反応が返ってきます。

 確かに、通常の患者さんとの関係では、そのように考えられるのは当然のことだと思います。
 しかし、モンスターペイシェントと呼ばれるような患者さんとの関係では、そこまでしなければ対応できないケースがあるのは事実です。
 そして、初めから、患者さんの見分けがつけばいいのですが、現実にはそれは困難と言わざるを得ません。
 とすれば、転ばぬ先の杖ということで、普段から患者さんとのやり取り、会話を録音しておくということも一度考慮してみられてはどうかと思います。

 昔のアナログの時代には、相手に分からないように録音をするというのは録音機のサイズだけからしても困難でした。
 しかし、デジタル化の進んだ現在では、小型化したICレコーダーに見られるように、相手に分からないように録音するというのは容易になりました。
  一度、インターネットで、「通話録音装置」や「小型ICレコーダー」といったキーワードでの検索をしてみられてはいかがでしょうか。

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by motomame | 2014-11-13 09:00
 今回は、紛争に備えてのリスクマネジメントについて、述べてみたいと思います。

 紛争には巻き込まれないように注意するのが一番ですが、どうしても避けようのない場合もあります。
 特に、近時、モンスターペイシェントと呼ばれる医療従事者や医療機関に対して自己中心的で理不尽な要求を繰り返す患者さんやその親族等の増加が問題となっており、医師をはじめとする医療従事者は、いわれのないクレームを受けるなどの紛争に巻き込まれる危険にさらされています。

 しかも、医師は、医師法19条1項の応招義務(「診療に従事する医師は、診察治療の求めがあった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。」)を負っているため、その危険から逃れることが困難です。
 このような紛争が訴訟にまで発展することは、今のところまだそれほど多くはありませんが、今後は増加していくことが予想されます。

 こういった紛争についての相談をこれまでにお聞きしていると、最終的に問題となるのが、いわゆる「言った、言わない」という点であることが少なくありません。
 逆に言えば、この「言った、言わない」という点さえ明確にしておくことができれば、仮に紛争に巻き込まれたとしても、紛争をいたずらに拡大させたりせずに、適切に処理することが可能となります。

 そこで、以下、当たり前の話が続くかもしれませんが、この「言った、言わない」という点を明確にしておくために考えられる方策について述べていきます。

 まず考えられるのは、書面化しておくということです。
 書面が唯一絶対のものであるとまでは言いませんが、訴訟においても、書面は関係者の供述と比べて一般的に信用性が高いものとして取り扱われています。

 書面化の例として、まず、挙げられるのは手術の同意書といった同意書の類です。
 これについては、ほとんど全ての医療機関において、患者さんから取るという運用をされているものと思います。
 ただ、この同意書を実際には事後的に取っておられる例が散見されます。
 事情によっては、事後的にならざるを得ない場合もあるのでしょうが、それはあくまで例外的な取扱とすべきです。
 そうしなければ、せっかく同意書面を取っていても、それが事前のものではなく、有効な同意はなかったとして、紛争の種となります。
 のみならず、普段から事後的に取ることが常態化しているようだと、全ての同意書面について、事後的に取ったものではないかという不要な疑いをもたれることにもなりかねません。

 次に、患者さんなどに説明をした際に、説明をした対象者から説明を受けた旨の確認書(通常は、説明内容の記載された書面と一体になっていることが多いものと思われます)に署名・押印してもらっておくことが挙げられます。
 医師が患者さんなどに対し、きちんとした説明をしたか否かという点が問題となる紛争は、かなりの数にのぼるものと思われます。
 したがって、面倒くさがらずに、何か説明をした場合には、できる限り説明を受けた旨の確認書を取っておくべきです。
 最も適切なのは、説明内容の記載された書面の下部に、「以上に記載された内容の説明を○○医師から確かに受けました」との文言を入れ、その下に説明をした対象者から、日付の記載と署名・押印をしてもらっておくことです。
 ただ、全てについて、このような対応をすることは現実問題として無理でしょうから、せめて重要事項についてだけでも、このような形式の確認書を取っておきたいものです。
 重要事項以外については、もう少し簡略なものでも構いませんが、それでもできる限り確認書を取っておかれることをお勧めいたします。

 さらに、重要な書類を交付した場合には、その受領書も作成して、署名・押印をしてもらっておくべきです。 
 渡したはずの書面をもらっていないと言われることは案外多く、この場合、いくら渡した書面の控えを取っていても、それだけでは渡したことの証明にはなりません。

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by motomame | 2014-11-06 09:00