医師・医療従事者・医療機関の方々に対する法律事務所からの情報発信です。赤井・岡田法律事務所HP: http://www.akai-okadalaw.com


by 弁護士 赤井勝治

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 前回の続きです。

 日々医療現場に臨んでいない法律家にとっては、何が現場のコンセンサスであるのかを探究する作業は非常に困難を極めます。
 法律家が具体的にどのような発想をしているのかというと、何か拠り所になる客観的なものを見つけ出し、それを拠り所にして主張を合理的に説明できないものかと検討をしたり、審理をしていくことになります。

 この「客観的なもの」として、医療文献を拠り所にする場合もあります。
 実際の医療訴訟では、患者側、医療者側の双方から大量の医療文献が提出されることが少なくありません。
 しかし、医療文献にもいろいろとあって、どれが権威のある文献なのかを弁護士が判断するのは非常に難しく、ともすれば、権威の有無・程度を度外視して、我田引水的に自らの主張を裏付けられるような文献だけをピックアップしてしまいがちです。
 裁判官も、双方からそれぞれの主張を裏付けするような医療文献が提出されても、どれを拠り所としたらよいのか、それだけでは判断ができません。

 そこで、法律家が「客観的なもの」として「拠り所」にするのが、薬剤の添付文書であったり、診療ガイドラインであったりします。
 添付文書や診療ガイドラインを基準として「医療水準」、ひいては当該医療者のミスの有無・程度を認定していこうという法律家の発想に対して、医療者側から強い抵抗感が示されていることは、法律家の側も認識しています。
 しかし、近時の最高裁判所は、①医師が医薬品を使用するにあたり添付文書に記載された使用上の注意事項に従わず、それによって医療事故が発生した場合には、これに従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限り、当該医師の過失が推定される(最高裁判所第3小法廷平成8年1月23日判決)とし、②添付文書に従わなかった場合には、医師が(診療ガイドラインなどの)最新情報を調査し、その最新情報に基づいて医薬品の投与を行った場合には、上記の特段の合理的理由があると認められる場合がある(最高裁判所第2小法廷平成14年11月8日判決)としています。

 また、添付文書と診療ガイドラインが異なっている場合には、診療ガイドラインを優先すべきであるとする裁判例もあります(高松高等裁判所平成17年5月17日判決)。

 こうした裁判所の考え方からすると、日々医療現場に臨まれる医療者としては、診療のために使用する医薬品の添付文書や、関係する最新の診療ガイドラインとの整合性をチェックしながら、医薬品の投与をされることが肝要であるといえるでしょう。
 添付文書や診療ガイドラインとは異なる医薬品の投与などの診療行為を選択され、仮にその結果として医療事故が発生した場合には、①診療ガイドラインは事故発生当時の医療水準を表していない、②当該医療現場(先の例では一般の診療所)で診療ガイドラインに従った治療を行うのは無理である(この場合には、別途、より高度の診療が可能な病院への転送義務が問題となる可能性があります。)、③患者の特殊事情から診療ガイドラインはあてはまらないなどの点について証明責任を負う(証明責任を果たすことができていないと評価された場合にはミスがあったと認定される)リスクを負うことになるということにご留意ください。

  赤井・岡田法律事務所
京都市中京区新椹木町通竹屋町上る西革堂町184番地
                  オクムラビル2階
        TEL(075)257-6033
        FAX(075)212-3670
執筆責任者 弁護士 赤井勝治(京都弁護士会所属)
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by motomame | 2014-10-30 09:00
 以前、本ブログにおいて、「証拠保全手続について」というテーマで、医療事故が発生した場合、患者さんご本人あるいはそのご家族の方などから相談を受けた弁護士は、①治療行為にミスがあったか否か、②ミスと結果(死亡や後遺症発症)との間に因果関係があるといえるか否か、③ミスの内容と結果から、法律や過去の裁判例を検討したうえで、損害賠償請求が可能か否か、④損害賠償請求が可能であるとしてその金額はどの程度かなどの「見通し」を立てるということを説明させていただきました。

 裁判官も、裁判においては、ほぼ同様の思考過程を経て心証を形成し、判決を言い渡したり、和解を勧めたりします。
 今回のテーマである、弁護士や裁判官という法律家と医療者の考え方の違いが最も顕著に表れるのが上記①の点です。

 ある患者さんに対して、A診療所のB医師が×××という薬剤をαミリグラム投与した結果、患者さんが死亡するという医療事故が発生し、患者さんのご遺族と医療側が責任の有無について争っているという架空の事例で説明させていただくことにしましょう。

 当該薬剤の投与行為にミスがあったか否かを判断するためには、B医師の当該薬剤投与行為がA診療所の属する規模の医療現場で要求される「医療水準」に適ったものであったのかをまず明らかにする必要があります。

 この「医療水準」について、上記の事案で、一般の診療所という規模の医療現場において、医療者がどのような診療行為を行えば良いのか(行うべきであるのか)という共通認識(コンセンサス)を明らかにしていくのだと言えば、日々医療現場に身を置かれている医療者の皆さんにとっては受け容れやすい内容なのではないかと思われます。

 しかし、日々医療現場に臨んでいない法律家にとっては、何が現場のコンセンサスであるのかを探究する作業は非常に困難を極めます。
 法律家が具体的にどのような発想をしているのかというと、たとえば、患者側の代理人である弁護士は、当事者双方の主張が食い違っている場合、何か自らの主張を裏付ける客観的なものを見つけ出し、それを拠り所にして患者側の主張を合理的に説明できないものかと検討を進めていきます。
 裁判官も、同様です。双方の主張が食い違っている場合には、客観的なものを拠り所にして合理的な説明ができるのはどちらの主張であるのかを審理していくことになります。
 これは医療紛争に限らず、すべての訴訟に共通する発想方法です。

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by motomame | 2014-10-23 09:00
 前回は、主に訴訟における証人尋問・本人尋問の手続面について説明しました。
 今回が、このテーマの最終回です。

 尋問は、あくまで裁判官が争点となっている事柄について判決を言い渡すために必要な「真実」を探究する目的で行われるものであって、当事者や関係者が言いたいことを自由に発言できる手続ではありません。

 では、一切自分の言いたいことが言えないのかというと、そこまで厳密に手続が進められることはありません。
 ただし、質問に対する発言が答えになっていないような場合には、「きちんと質問に答えてください。」、「聞かれてないことについて勝手に発言しないください。」と裁判官から注意されることがあります。
 こうした裁判官からの注意を無視するような発言を続けると、そのような供述態度自体が発言の信用性を低くする要素(「その質問にきちんと答えてしまうと、自分に不利益になるから、はぐらかしているのだろう。」など)であると判断されてしまうおそれがあります。

 このように裁判官は発言の内容のみならず、発言者の態度などもチェックしています。
 相手方の弁護士に対して反抗的な態度を取り続けるなどするのは厳に慎まなければなりません。

 弁護士としては、依頼者である原告あるいは被告に対する主尋問においては、極力「はい」か「いいえ」の答えで済ませられるよう考えます。
 依頼者の主張はすでに準備書面等で明らかになっており、通常は証拠調手続に入る前に、依頼者の主張をまとめた「陳述書」も裁判所に提出されているので、具体的な内容を逐一詳細に本人に発言してもらう必要がないからです。
 また、自由に発言した内容が、当の本人の認識とは異なり、裁判官からすれば本人にとって不利益な発言を自らしたと認定されてしまう危険をできる限り小さくするという目的もあります。
 どうしてもこれだけは裁判官に直接聞いてもらいたい事柄があるという場合には、打合せの段階で、依頼者から自分の代理人弁護士にその旨の申し入れがあり、直接裁判官に聞いてもらいたい事柄が答えとなるように質問をしてもらうということもあります。

 しかし、どれほど本人が切望されても、それを発言することが本人にとってマイナスになってしまうような場合(発言自体がマイナスになってしまうこともあれば、発言自体はともかくそれが「やぶ蛇」になってしまうことが少なくありません)には、弁護士から発言を控えるように促されることもあります。
 代理人の弁護士は、打合せの段階で、依頼者である原告(あるいは被告)にきちんと説明をし、理解をしていただいたうえで証言台に立ってもらうことに心を砕きます。

 これに対し、反対尋問の場合には、相手方がどのような回答をするのかは実際にやってみないと分かりません。
 その意味で、反対尋問は弁護士の力量が試される場面であると言えます。
 通常は質問相手が対立当事者である以上、自分の依頼者にとって不利益な発言しかしないであろうということを前提に、どこまでのことを発言させるのかなど色々とシミュレーションをするなどします。
 「はい」とか「いいえ」だけを答えさせる質問をして、いくつかの事項について確認を取り、各事項についての主張相互間の矛盾・牴触を追及することを考えたり、具体的な発言をさせる質問をして、その発言内容についてそれまでなされた主張や提出されている証拠関係との矛盾・牴触を追及するなど、何通りものQ&Aをあらかじめ想定して準備しておきます。

 反対尋問においては、何の成果も得られないことの方が多いのですが、想定したとおりの発言が得られ、相手方の主張を崩せることもあります。
 ときには、想定の範囲を超え、期待した以上の成果が得られる場合もあります。

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by motomame | 2014-10-16 09:00
 前回は、訴訟における証人尋問・本人尋問とは何かについての基本的な事項を説明しました。
 今回は、その続きです。

 和解による解決ができず、各当事者の主張する「事実」のうち裁判官の言い渡す判決に影響を及ぼすであろう重要な「事実」に争いがあり、双方から提出されている証拠からはどちらの主張する「事実」が「真実」であるのかの判断ができないような場合には、裁判官が当事者本人や関係者の話を直接聞いたうえで何が「真実」であるのかを決めざるを得ません。
 このように、証人尋問や本人尋問は、おおむね裁判の最終場面で行われるものと言うことができます。

 なお、実際の裁判では、「弁論手続」や「弁論準備手続」の中で提出された準備書面等や証拠により、裁判官は何が「真実」であるのかについてあらかじめ心証を形成(内心的判断を)しており、尋問はその確認のために行われることが多いと思われますが、それでもなお証人尋問や本人尋問でのみ明らかになる事柄もあり、ときにはそれが裁判官の心証を変えてしまうこともあります。

 尋問が行われる裁判期日当日、証人や原被告本人は、宣誓書に署名をし(認め印の押印も必要です)、傍聴人のいる公開の法廷で、裁判官に向かって、その朗読をします。
 「良心にしたがって本当のことを申し上げます。知っていることを隠したり、ないことを申し上げたりなど、決して致しません。右のとおり誓います。」と読み上げるのです。
 この宣誓に反するような発言があった場合、証人は偽証罪で処罰される可能性がありますので、宣誓の後、裁判官からその旨の注意があります。
 原告・被告本人は偽証罪で処罰されることはありませんが、過料という行政罰の制裁を受ける可能性があることが注意されます。

 上記のほか、裁判官からは、手続を進めるにあたっての注意すべき事項についても説明があります。
① 質問を必ず最後まで聞いてから答えること
② (証言台の)正面にいる裁判官に向かって答えること(左右にいる自分の代理人弁護士や相手方弁護士の方に向かって答えないこと)
③ 質問をされたとき、「はい」か「いいえ」で答えることができるものであるときは「はい」か「いいえ」とだけ答えること(具体的な内容は質問者などから促されてから発言すること)
 このようなことを指示されます。
 ①と②は、法廷でのやりとりについて録音がされており、それを元にして調書が作成されるので、声が重ならないように、きちんと発言を録音できるようにという趣旨で指示されるものです。
 ③については、意外に思われる方がいらっしゃるかもしれません。
 特に原告・被告本人の立場にある者からすると、それまで書面のやりとりばかりだったので、裁判官に自分の生の声を聞いて欲しい、自分の主張を直に裁判官に伝えたいと思われるかもしれません。

 この点、尋問は裁判官が当事者や関係者の話を聞く手続であると書きましたが、あくまでそれは、裁判官が争点となっている事柄について判決を言い渡すために必要な「真実」を探究する目的で行われるものであって、当事者や関係者が言いたいことを自由に発言できる手続ではないのです。

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by motomame | 2014-10-09 09:00
 民事訴訟が提起された場合、原告と被告は、それぞれ自分の言い分を書面で主張し、その主張を裏付ける証拠を提出します。
 医療事故が発生し、患者さんや患者さんの遺族など(原告)から医療機関側(被告)に対して損害賠償を求める訴えが提起された場合も同様です。

 原告は、まず「訴状」で自己の主張を展開し、証拠を提出します。
 被告はこれに対して、「答弁書」や「準備書面」で反論し、自己の主張を展開し証拠の提出をします。
 これに対して今度は原告が「準備書面」で再反論をしと、多くの裁判では、始まってからしばらくの間はこうした書面での主張や証拠のやりとりが繰り返されます。
 その過程で、たとえば過失の有無・内容や損害額などの「争点」が明確化され、各争点ごとにそれぞれの主張が整理されていくことになります。
 この手続を「弁論手続」や「弁論準備手続」と言います。

 裁判期日では、先ずこうした手続において、互いに書面が提出されたことを確認し、次の裁判の期日や次の書面の提出期限を決定するだけで、数分から十数分という短い時間で終わってしまうことも少なくありません。この実情を説明すると、裁判というのは当事者や弁護士が常に法廷でやり合うものだと想像されている依頼者の方は非常に驚かれます。

 「弁論手続」や「弁論準備手続」における原告・被告双方の主張が尽くされたと裁判官が判断すると、次に「証拠調手続」に移ることになります。
 この証拠調手続の中で行われるのが、今回のテーマである「証人尋問」や「本人尋問」です。
 原告でも被告でもない第三者に対して行われる尋問が証人尋問、原告本人や被告本人に対して行われる尋問が本人尋問です。

 また、証人尋問でも本人尋問でも、その尋問を申請した側(の代理人弁護士)から質問がなされこれに答えるものを「主尋問」、その尋問を申請しなかった側(の代理人弁護士)から質問がなされこれに答えるものを「反対尋問」と呼びます。

 もっとも、すべての裁判でこれらの尋問が行われるわけではありません。
 たとえば、弁論手続や弁論準備手続の中で、裁判官から和解をしてはどうかと勧められることもあり、これを原告・被告双方が受け容れれば、和解が成立し、これによって尋問が行われることなく裁判手続は終了します。

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by motomame | 2014-10-02 09:00