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by 弁護士 赤井勝治

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 前回は、医師の応招義務について、少し具体的なケースについて検討してみました。

 このように旧厚生省がこれまでに示している行政解釈による基準によれば、医師の先生方には、かなり厳しい応招義務が課せられています。

 最後に、応招義務との関連で、医師の先生方や看護師さんに対し暴言を吐くなどの問題行動を行う患者さんに対して、どのように対処をすればよいのかについて考えてみたいと思います。

 ここまで見てきたように、医師の先生方にはたいへん厳しい応招義務が課されているため、このような場合であっても安易に診療を拒否することはできず、もし拒否すると、応招義務違反として損害賠償責任を負うことになりかねません。

 一般論としては、暴言などの問題行動の程度や態様がどれほど酷い場合であっても例外なく応招義務を認めることは社会通念に照らし相当ではないことから、診療を拒否する正当な事由の認められる場合があるものと考えられます。
 しかし、残念ながらこの点に関する裁判例などの前例がほとんどないため、どのような場合であれば拒否できるのかを論ずることは容易ではありません。
 現在のところは、損害賠償責任を負うかもしれないというリスクを承知の上で対処するしかないというのが正直なところです。

 したがって、以下は、あくまで私見であることをお断りしておきます。

 現時点で、単に診療を拒否する以外に考えられる法的措置としては、その患者さんの行為が再三の注意や説得にもかかわらず繰り返され、医師としての業務に支障をきたすような場合には、医院への立ち入りなどの禁止を求める仮処分を裁判所に申し立てることが考えられます。
  また、威力業務妨害として、刑事告訴することも考えられます。

  赤井・岡田法律事務所
京都市中京区新椹木町通竹屋町上る西革堂町184番地
                  オクムラビル2階
        TEL(075)257-6033
        FAX(075)212-3670
執筆責任者 弁護士 赤井勝治(京都弁護士会所属)
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by motomame | 2014-08-28 09:00
 今回は、医師の応招義務について、少し具体的なケースについて検討してみましょう。
 以下は、旧厚生省がこれまでに示している行政解釈に従っています。

 基本的には、どのようなケースであっても、症状が重篤である等直ちに必要な応急の措置を施さなければ患者さんの生命、身体に重大な影響の及ぶおそれがある場合においては、医師は診療に応じる義務があるとされています。

① 患者さんが過去の医療費を支払っていない場合
 医療費の不払があっても、直ちにこれを理由として診療を拒むことはできないとされています。
 「直ちに」とされていますので、不払いがあったとしても絶対に拒否ができないわけではないと考えられますが、いかなる場合であれば、拒めるかについて明確な基準は示されていません。
 患者さんに支払う能力があり、かつ、何度も支払うよう請求や説得を繰り返したにもかかわらずあえて支払わないようなケースでは、拒否することについて正当な事由があると認められる余地があると考えられます。

② 診療時間外に来られた場合
 診療時間を制限している場合、時間外であっても、これを理由として急施を要する患者さんの診療を拒むことは許されないとされています。
 ただし、休日夜間診療所、休日夜間当番医制などの方法により地域における急患診療が確保され、かつ、地域住民に十分周知徹底されているような休日夜間診療体制が敷かれている場合において、来院した患者さんに対し、休日夜間診療所、休日夜間当番院などで診療を受けるよう指示した場合には診療拒否にはあたらないとされています。

③ 自己の標榜する診療科名以外の診療科に属する疾病について診療を求められた場合
 患者さんが診療できないということにつき了承した場合には、「正当な事由」が認められることがありますが、患者さんが了承せずに依然診療を求める場合には、応急の措置その他できるだけの範囲のことをしなければならないとされています。

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by motomame | 2014-08-21 09:00
 今回は、診療拒否等に関連した問題について見ていくことにします。

 医師法19条1項は、「診療に従事する医師は、診察治療の求めがあった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。」と定めており、これを医師の応招義務と呼んでいます。

 この義務は、医師の患者に対する直接の義務(私法上の義務)ではなく、医師が医業を独占していることから公に負っている義務(公法上の義務)であるとされています。

 では、患者さんから診察、診療を求められたにもかかわらず、正当な事由もなくこれを拒んだ場合、医師の先生方にはどのようなペナルティが課されるのでしょうか。

 まずは、こういった応招義務違反を反復した場合には、医師の品位を損する行為として医師免許の取消等の行政処分の事由となる場合があり得ます(旧厚生省の行政解釈)。

 また、医師の先生方が診療拒否したことにより、患者さんに損害が発生した場合には、先生方に過失があるとの一応の推定が働き、拒否することについて正当な事由があったことを証明しない限り、その損害を賠償する責任を負うことになります。

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by motomame | 2014-08-14 09:00
 前回の続きです。
 患者側からADR機関へ申立てがなされ、応諾するか否かの問合せを受けたことがあるのは、全体400病院のうち20病院(5%)であり、件数でいうと24件でした。
 24件の問合せに対して、和解あっせんに応じるとの回答をしたのは13件、半数以上の病院が応諾しています。

 では、応諾しなかった病院は、どのような理由に基づいて不応諾の回答をしたのでしょうか(執筆者の主観が入らないように、アンケート結果として記載されたものをそのまま引用します)。

①数回に亘り説明を行い、医療過誤ではない旨説明しており、今後も外来診療時はもちろんのこと、再度説明を希望されれば、説明する機会を持たせていただくこととしているため、出向いての説明は不要と判断した。
②既に、何度か説明の場を設けたが、説明に納得されず高額な要求があり、話し合いによる解決は難しいと判断したため。
③事前のインフォームドコンセントは十分に行っており(署名記録保存)、患者側の一方的な思い込みであるため。
④診療経過並びにその後の症状等について、診療科から説明しており、医療過誤であったとの認識がないため。
⑤症状出現の期日から申し入れ期日まで3年を経過しており、因果関係が認められないこと、過失は認められないこと。
⑥診療内容に特に問題はなく、また、20年以上前の診療で当時の医師、診療録も存在してなく、「仲裁に関して参加する意志はない」とした。
⑦カルテ開示もしないで患者側の申立てだけで一方的にADRを行うのは不公平であり、裁判制度に屋上屋を重ねるものであること、裁判制度に加えてADR制度があると医療者の精神的・時間的・肉体的負担が益々増進することになるため。
⑧裁判という法的に確立した国家機関が行う究極の制度を利用して過失の有無を判断していただかないと医師のモラルダウンに繋がるため。
⑨損害の事実が認められないとして、最高裁による控訴棄却がなされているため。

 おおむね、きちんとした対応をしたから不応諾の回答をしたということがいえるでしょう。

 逆に、応諾して和解あっせん手続きに臨んだ病院はどのような感想・印象をもったのでしょうか(この部分もそのまま引用します)。

⑴ 良かった点
①医事紛争の早期解決のために役立った。
②裁判等と比較し短期間で解決に結びついた。
③良い面として安価であり、処理期日が短期であること。
④患者の抱えている問題が整理されて医療者側へ届くこと。
⑤交渉の当初から弁護士が直接介入する事ができ、紛争解決にあたり時間的にも短縮できるという利点がある。
⑥第三者が入ることで、感情的になりがちな話し合いが、建設的な話し合いとなった。高度の医療知識を有した弁護士があっせん人になることにより、中立的な立場で話し合いをスムーズに行えたことが良かった。
⑦証人喚問がなく、関係者の心理的負担がないこと。
⑧第三者の調停人を入れた話し合いを非公開で行えることは利点である。

⑵ 悪かった点
①医療上での内容討論がなされないままお金の解決となることから、当事者としては不本意である。
②必ずしも、患者側と良好な関係を取り戻すための役に立つとは思えなかった。
③ADRの趣旨は理解できるが、患者側のメリットのみで病院側のメリットは殆どないと思われる。基本的に、病院で検討した結果、病院側に非がある(過失がある)と判断した場合は、示談等の手続きを進めていくことになるが、病院側に非がない(過失がない)と判断した場合は、仲裁の申し立て等に応じても、病院の判断が変わることはないと思われる。
④申し立てに対し、第三者の専門的な意見・判断がないままの安易な依頼との印象を持った。
⑤事実関係について患者側と医療機関側の主張が対立する場合には、ADRでの解決は難しい。
⑥患者サイドにしてみれば、裁判所へ行かなくても調停が出来るため便利であるが、病院サイドとしては、この制度が浸透して頻繁に発生すると(安易に利用する者が増えると)、はっきり言って煩わしい。
⑦医療者側が何らかの過失を認識し、賠償金額についても患者側と歩み寄りが可能な事案では有用であるが、そうでない場合には、「訴訟の前段階」という印象である。
⑧係争の性質上、裁判によって解決をはかる場合と比して、医療者にかかる負担は裁判と同様であるように思われる。

 医療ADRは、医療事故紛争解決の選択肢のひとつに過ぎず、裁判など既存の紛争解決手段との使い分けが必要であり、医療機関側も、どの手段で紛争の終局的解決を図るかをあらかじめ検討しなければならないことを示唆する結果といえるでしょう。

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by motomame | 2014-08-07 09:00