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by 弁護士 赤井勝治

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 前回の控訴審の話の続きです。

 控訴審では、X病院の担当医(前医)とY病院の担当医(後医)の責任関係について、次のような一般的な準則が示されました。
(1)本件のAさんの場合のように、ある医療機関で診療を受けていた患者が、より高次の医療機関に移送されるということも少なくないが、その場合は、それを境に、患者は前医から後医の保護管理下に移ることになるのであって、これにより、前医は患者に対する責任から解放される。したがって、仮に、前医に誤診など何らかの過失があったとしても、原則として、後医への移送を機に前医の過失は不問に付され、患者に対して責任を負うのはもっぱら後医であるということになる。
(2)もっとも、患者が後医に移送された後も、前医の過失がなお影響を及ぼしているという場合もないわけではない。例えば、①前医の過失のために、既に手遅れとなり、後医としてはもはや手の施しようがない場合などは、もっぱら前医の過失のみが問われることになるのは当然である。また、②前医の過失が後医の過失の原因ないし誘因となっている場合には、双方の過失がともに問われることになるものというべきである。

 結局、本件は(2)の②に該当するとされ、控訴審はX・Y病院双方の責任を認めました。
 まず、X病院の担当医(前医)の過失(責任)については、肥満および右膝異物除去手術という肺塞栓症の素因を有していたAさんについて、肺塞栓症の疑いをもつべきであったとしました。そして、「肺塞栓症の疑いをもった医師としては、①肺塞栓症罹患の有無について確定診断をするべく、心エコー検査や肺動脈造影又は肺換気・肺血流スキャンの各検査を実施するか、②上記確定診断ないし所要の治療を得るべく、しかるべき高次医療機関に患者を移送するかしなければならないというべきである。そして、②の措置を講ずるに当たっては、高次医療機関をして①の諸検査に円滑にとりかからしめ、もって、適時適切な診断・治療を可能にするために、少なくとも、肺塞栓症に罹患しているのではないかとの疑いを持っていることを高次医療機関に対して申し送るべきである。」と判示し、肺塞栓症の疑いをもたず、それを前提とする申し送りもしなかった前医の注意義務違反(過失)を認めました。
 また、Y病院の担当医(後医)の過失(責任)については、肺塞栓症の疑いの存在を前提としない申し送りをされていたことなど「無理からぬ側面」があったとしつつも、X病院から提供されていた情報は肺塞栓症と矛盾する内容のものでなく、Y病院の担当医(後医)も、その誘因をされる事情(肥満や右膝異物除去手術)を含めそれを把握していたこと、Aさんの訴えやそれを受けて実施された検査結果が肺塞栓症と矛盾する内容のものではなかったことから、その時点で肺塞栓症を疑い、上記①の措置をとるべきであったとして、肺塞栓症を鑑別対象に入れた措置をとらなかった後医の注意義務違反(過失)を認めました。

 控訴審の示したこの準則については批判的な論評もあり、また、この裁判例をある研究会で検討した際には、医療訴訟に詳しい弁護士や現役の医師から、結論の妥当性について、特に後医の責任を認めた点について懐疑的な意見も出ました。
 今後、同種の事件について他の裁判所がこの準則に依拠して判断するか否かは定かではありませんが、少なくとも過去の裁判例の一つとして取り上げられるものと思われます。

  赤井・岡田法律事務所
京都市中京区新椹木町通竹屋町上る西革堂町184番地
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執筆責任者 弁護士 赤井勝治(京都弁護士会所属)
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by motomame | 2014-04-24 09:00
 医師の先生方は、他の医療機関で治療を受けていた患者さんを、紹介などによって引き継いで治療することになったり、逆に、先生方自身が治療に当っていた患者さんを他の医療機関に紹介するなどして引き継いで治療をしてもらうようお願いされることがあると思います。

 今回は、患者さんに対する診療がある医療機関(前医)から他の医療機関(後医)に引き継がれた場合における両医の責任の有無が問題となったケースをご紹介いたします。

 事案は、肥満および右膝異物除去手術という肺塞栓症の素因を有していたAさん(当時48歳、消防士)がX病院に入院中に、容態が急変したことからY病院に移送されたものの、肺塞栓症により死亡したというものです。
 Aさんの遺族らが、Aさんには肺塞栓症を疑わせる所見が見られたにもかかわらず、X・Y病院の各担当医師ともにこれを疑わず、いずれも漫然と心疾患と診断して肺塞栓症に対する適切な処置を取らなかったためにAさんを死亡させたとして、X・Y病院に対して、不法行為に基づく損害賠償を請求しました。

 原審の熊本地方裁判所(熊本地裁平13(ワ)第785号事件、掲載誌なし)は、X・Y病院の各担当医師がAさんの肺塞栓症を疑わなかったことに注意義務違反(過失)は認められないとして、Aさんの遺族らからの請求を棄却しましたが、控訴審の福岡高等裁判所(福岡高裁平16(ネ)第1017号事件、判例タイムズ1227号303頁)は、原審の判決を変更して、X・Y病院の責任を認めました。

 控訴審では、Aさんの肺塞栓症発症の原因と時期をめぐって、X病院とY病院との間で鋭い対立が見られました。
 X病院側は、肺塞栓症発症の契機となった塞栓子は、Y病院に移送後の同病院における冠動脈造影検査により発生したとしか考えられないと主張したのに対し、Y病院側は、その原因は右膝異物除去手術にあり、X病院在院中に既に肺塞栓症を発症していたと考えられると主張したのです。
紙面の都合上、詳細な事実関係や具体的な主張内容については割愛させていただきますが、控訴審では、Aさんの肺塞栓症はX病院に入院している間に発症していたと認定されました。

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by motomame | 2014-04-17 09:00

医師の説明義務(2)

 前回に引き続き、医師の説明義務そのものについて説明したいと思います。

 説明義務の範囲
 これについては、前述の患者の自己決定権を実質的に保証するに足りる内容のものとされています。
 判例(最高裁平成13年11月27日判決)では、「患者の疾患の治療のために手術を実施するに当たっては、診療契約に基づき、特段の事情のない限り、患者に対し、当該疾患の診断(病名と病状)、実施予定の手術の内容、手術に付随する危険性、他に選択可能な治療方法があれば、その内容と利害得失、予後などが説明義務の対象となる」としています。

 説明の時期
 これは、当該侵襲的治療行為の前です。

 説明義務違反の効果
 説明義務違反があっても、当時の臨床実践における医療水準に従った診療、治療行為がなされた場合、仮に、患者に後遺症や死亡などの結果が発生しても、原則として医師がこれらの結果についてまで責任を問われることはありません。この場合には、患者が自己決定権を行使する機会を奪われたという精神的損害に対する慰謝料が認められるのみです。
 ただし、例外的に、説明義務が尽くされていたならば、後遺症や死亡という結果が発生しなかったという因果関係が証明されれば、医師は全損害に対する責任を負うことになります。
 説明義務違反についての有名な事件としては、「エホバの証人」患者への輸血事件(最高裁平成12年2月29日判決)があります。
 この事件では、肝臓腫瘍の摘出手術を行うにあたり、医師が、輸血拒否の固い信念を有しているエホバの証人の信者である患者に対し、他に救命手段がない場合には輸血するという治療方針について説明すべき義務に違反したとして、慰謝料50万円が認められました。
 裁判で認められている慰謝料の金額としては、20万円~500万円程度のものが多く一般的には、さほど高額にならないことが多いと考えられます。

 特別なケース
 特別なケースとしては、まず、医療水準上の治療方法が確立されていないケースがあげられます。
 これについては、極小未熟児の未熟児網膜症などについて、いくつかの裁判例があり、裁判例の流れとしては、当初は医師の説明義務は否定されていました。しかし、近時は、必ずしも当時の臨床医学の実践における医療水準として確立されていない治療方法であるからといって、直ちに説明義務がないとは言えないとして原則としては説明義務を否定しながらも、例外的に説明義務が肯定される余地を認めるものが出てきています。
 次に、特別なケースとしては、一定の効果や結果の達成を目的としてなされる医療行為(美容整形など)のケースがあげられます。
 美容整形、歯科の審美的治療、近視改善術などは、一定の効果や結果の達成を目的として行われるものであり、これらについては、通常、緊急性と必要性に乏しく、説明すべき時間的余裕が十分にあります。
 よって、医師は、当該美容整形等を選択する必要性の有無、手術内容、方法、代替的診療方法の有無、後遺症発生の有無、内容、程度、当該医療行為をしなかった場合の予後などについて患者に十分説明をすべきとされます。そして、医師が説明を十分尽くしていたならば、患者は当該医療行為を受けなかった蓋然性が高いと考えられることから、医師に説明義務違反があった場合には、原則として、医師は当該医療行為によって生じた結果の全てについて責任を負うものとされます。

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by motomame | 2014-04-10 09:00

医師の説明義務(1)

 従来から、医療訴訟が提起される発端の一つに、医師の説明不足があることが指摘されてきました。
 そこで今回は、医師の説明義務そのものについて説明したいと思います。

 説明義務の根拠
 主として二つの根拠が挙げられます。
 その一つは、治療行為(侵襲的治療行為)に対する患者の同意、承諾を得るために必要だという点です。
 手術、麻酔薬の投与、検査のための造影剤投与等の患者の身体への侵襲を伴う治療行為については、患者の同意、承諾が必要であるため、患者から有効な同意、承諾を得る前提として、医師には手術等の内容や危険性についての説明が義務づけられます。
 この点についての、リーディングケースとなった判例に、最高裁昭和56年6月19日判決があります。
 これは、頭蓋骨陥没骨折の傷害を受け、それによる脳内出血の疑いがある患者に対し、医師は早期に開頭のうえ脳内血腫の除去手術の必要があると考え、同手術の内容及びそれに伴う危険等を説明して手術をしましたが、患者が死亡したという事案で、裁判所は、「頭蓋骨陥没骨折の傷害を受けた患者の開頭手術を行う医師には、右手術の内容及びこれに伴う危険性を患者又はその法定代理人に対して説明する義務がある」としました。

 根拠としてのもう一つは、患者が、自己の生命、身体、機能をどのように維持するかについて自ら決定する権能(自己決定権)を行使するために医師に課されるという点です。
 その根底には、いわゆる「インフォームド・コンセント」の考えがあります。ここに言う「インフォームド・コンセント」の内容は、患者が自己の病状、医療行為の目的、方法、危険性、代替的治療法などにつき正しい説明を受け、理解した上で、自主的に選択・同意・拒否できることをいい、①医療従事者からの十分な説明と、②提供された情報に基づく患者側の理解・納得・同意・選択という2つの内容を含むものとされています。
 この点についての裁判例(東京地裁平成12年12月25日判決)では、「一般に、医療上の治療行為を行うについて、それが患者の身体に対する侵襲行為に該当する場合には、原則として、医師又は歯科医師は、患者に対し右治療行為の内容及びこれに伴う危険等について事前に説明した上、患者の同意を得るべき義務を負っているというべきである。そして、これは患者の立場からみると、患者は原則として、自己の受けるべき治療について一定の決定権を有しているというべきである。」とされています。

 このように医療機関は、診療契約に付随する義務として、特段の事情がない限り、所属する医師等を通じて、医療行為をするに当たり、その内容及び効果をあらかじめ患者に説明し、医療行為が終わった際にも、その結果について適時に適切な説明する義務を負うものとされます。

 説明の相手方 
 説明の相手方は、原則として患者本人ですが、それが困難な場合には法定代理人などの本人に替わるべき者ということになります。

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by motomame | 2014-04-03 09:00