医師・医療従事者・医療機関の方々に対する法律事務所からの情報発信です。赤井・岡田法律事務所HP: http://www.akai-okadalaw.com


by 弁護士 赤井勝治

安全配慮義務について(2)

 前回の続きです。

 医療機関の安全配慮義務が問題となった裁判例としては、以下のようなものがあります。

(1)脳梗塞の治療及びリハビリテーションのために入院中の患者が、病院内階段の2階と3階の間の踊り場に設置されていた窓から転落し、頭蓋骨骨折、脳内出血及び慢性硬膜下血腫の傷害を負い、意識不明の重篤な症状に陥り、医療機関に対して不法行為に基づく損害賠償が請求された事案。

 裁判所は、本件事故当時、患者の多発性脳梗塞による見当識障害自体は治まりつつあったことが認められ、病院に入院した当時の見当識障害があった時期から本件事故当日まで、階段を下りようとしたり、実際に本件階段を下りたことは一度もなく、病院から逃げ出そうとしたり、窓から飛び降りようとするなどして自殺を図ったり、自暴自棄になったりしたことは一度もなかったことが認められる。また、患者は、本件事故当日、夕食後以降2回にわたって、廊下に出て来て、リハビリテーションをしようとしたが、看護師に発見、注意され、これに従って病室に戻っていること、看護師は、巡回した際に、患者がベッドに座っていたのを認めて話しかけ、ベッドに臥床させたこと、患者は、同日夜、ややそわそわと落ち着きがない様子であったが、不穏、見当識障害はなく、看護師の指示には素直に従っていたこと、患者は、本件事故当日もリハビリテーションとして廊下内で数メートルの平面歩行をしたのみで、一度も階段を下りたことがなかったことが認められるとの事実を認定しました。
 そのうえで、各認定事実によれば、看護師が患者の臥床を確認したわずか2、3分後に、患者が、病室から抜け出し、独力で階段を下りて、踊り場に行き、窓のクレセント錠による施錠を開錠し、バーを越えて、窓から外に出ようとするという異常な行動をとることは、看護師及び医療機関において、到底予見不可能であったといわなければならないとし、患者のかかる異常な行動を防止できなかった点について、医療機関に安全配慮義務違反その他の過失があったとは認められないと判断して、安全配慮義務違反を否定しました。

(2)医療機関の開設運営するグループホーム(痴呆対応型共同生活介護施設)に入居していた患者が、入居中に、ベッドから転落して負傷したとして、不法行為又は債務不履行に基づき損害賠償が請求された事案。

 裁判所は、患者が施設に入居したわずか2日後日に、患者は、就寝していた際にベッドから転落して傷害を負っていること、それを契機として、本件において転落事故再発防止のための具体的な有効策が施された形跡はうかがえないこと、その7日後にも、患者が再度ベッドから転落しているがその後も転落事故再発防止のための抜本的な有効策は講じられていないこと、その後も、夜間に2回、患者がベッドから落ちそうになっていることが発見されているが、それにもかかわらず、転落防止策について、有効な策は何ら講じられていないことなどの経過を経て本件事故が発生したとの事実を認定しました。
 そのうえで、これらの認定事実によれば、医療機関には契約上負っている安全配慮義務等の違反が認められると判断して、債務不履行責任に基づき6,000万円強の支払を命じました。

 以上の裁判例を見れば、裁判所が、事故発生に至る経緯や、それまでに同種事故の発生があったかどうか等の諸事情に照らして、医療機関が当該事故の発生を予見することができたか否か、これを回避するための相当な措置を講じていたか否かを考慮して、安全配慮義務違反の有無を判断していることがお分かりいただけると思います。

 これらを踏まえれば、少なくとも、一度病院施設内で転倒事故などがあった場合には、そのまま放置せずに、その原因を究明して、できる限りの再発予防措置は講じておくべきだと言えます。

  赤井・岡田法律事務所
京都市中京区新椹木町通竹屋町上る西革堂町184番地
                  オクムラビル2階
        TEL(075)257-6033
        FAX(075)212-3670
執筆責任者 弁護士 赤井勝治(京都弁護士会所属)
[PR]
by motomame | 2014-12-11 09:00