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by 弁護士 赤井勝治

医師の裁量(2)

 「医師の裁量」の限界
  ただし、「医師の裁量」も全くの自由裁量ではなく、①「医療水準」による制約、②比較考量に依拠した診療上の合目的的判断の必要性による制約、③患者の自己決定権による制約を受けるものとされています。

  まず、「医療水準」による制約ですが、この制約を前提としてる判例として、最高裁昭和54年11月13日判決があります(「医療水準」そのものについては、また別の機会に取り上げさせていただきます)。
 これは、呼吸障害が認められた未熟児に対して、医師が酸素投与を行った結果、未熟児網膜症を発症し失明した事案でした。判決では、「…(医師の患者に対する)予防ないし治療の方法は、当時における本症に関する学術上の見解や臨床上の知見として一般に受容されていたところに従って行われたものであって当時の医学水準に適合したものというべきであり、その間特に異常ないし不相当と思われる措置が採られたとは認められないのであるから、小児科医としての裁量の範囲を超えた不相当なものであったということはできない」と判示しました。
 また、「医師の裁量」が「医療水準」によって制約されることを明確に述べた裁判例として、札幌地裁平成10年3月13日判決(判例時報1674号115頁)があります。この裁判例では、肝臓腫瘍が悪性腫瘍の疑いと判断した際の検査方法について、「(医師の)裁量も診断当時のいわゆる臨床医学の実践における医学水準によって画されているものといわねばならない」と明確に判示しています。

  次に、比較考量に依拠した診療上の合目的的判断の必要性による制約です。これは言い回しこそ難解ですが、当たり前のことを述べているに過ぎません。すなわち、医師は、複数の診療方法や治療方法がある場合には、これらを比較考慮し、最も適切と考えられる手段を選択しなければならず、その前提として患者に関する情報や診療方法・治療方法に関する医学的情報を十分に取得していなければなりません。したがって、これらを怠った場合には、「医師の裁量」を理由として、医師側の責任は排除されないことになります。
 この点については、悪性腫瘍の疑いがあったので放射線治療を開始したところ、後に検査によって悪性腫瘍でないという結果が出たにもかかわらず、漫然と放射線治療を継続したことにつき過失が認められた例や、患者の症状から複数の疾病が想定される場合に、蓋然性の低い重大疾病の確定診断のための検査を怠ったことにつき過失が認められた例などがあります。

  最後に、患者の自己決定権による制約です。
  その典型例としては、前々回の「医師の説明義務」で取り上げた最高裁平成12年2月29日判決(「エホバの証人」患者への輸血事件)があります。この事件では、肝臓腫瘍の摘出手術を行うにあたり、医師が、輸血拒否の固い信念を有しているエホバの証人の信者である患者に対し、他に救命手段がない場合には輸血するという治療方針について説明すべき義務があったとされました。また、これに直接言及したものとしては、高松地裁平成9年3月11日判決(判例時報1657号110頁)が、患者の適法な承諾に基づかずに行われる医療行為においては、「その実施方法に関する医師の裁量は自ずから狭いものになると解すべき」と判示しています。この判決の事案は、血管造影検査を実施したところ、その翌日患者が心停止、呼吸停止に陥ったという事案です。頸部腫瘤の摘出手術を前提として術前診断の目的で実施した当該検査について、本来腫瘤の良性・悪性の鑑別には意義がないにもかかわらず、医師が患者に対し、その鑑別のためと誤解させるような説明をしたため、患者の当該検査を受ける旨の承諾は適法な承諾とは言えないと認定されました。そして、そのような場合の当該検査の実施については通常の場合よりも注意義務の程度が高度になるとして、その実施方法選択の過失などが認定されています。

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執筆責任者 弁護士 赤井勝治(京都弁護士会所属)
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by motomame | 2014-05-08 09:00