医師・医療従事者・医療機関の方々に対する法律事務所からの情報発信です。赤井・岡田法律事務所HP: http://www.akai-okadalaw.com


by 弁護士 赤井勝治
 前回の「裁判所の判断」の続きです。

 ところで、人間ドックの受診者は通常検査内容について殆ど知識を有していないうえに、検査内容について取捨、選択できず、通常実施医療機関側の決定した検査内容を一方的に受容せざるをえないのが実情であり、さらに人間ドックは長期にわたる継続的受診による健康管理を予定しており、その間には複数の医療機関における受診も予想されることを考慮すると、実施医療機関によって検査項目、検査方法及び判定基準が大幅に異なるのは好ましいことではない。

 そして、そのような見地から健保連は前記短期人間ドック契約を締結し、指導基準を定めて指導していたのであるから、被保険者である受診者と実施医療機関との間で締結される個別の人間ドック診療契約においても、右短期人間ドック契約及び指導基準に従った検査を行うことが当然の前提とされていたと解するべきである。

 したがって、合理的な理由がないのに右契約において定められた検査項目を実施せず、あるいは指導規準において定められている検査方法・判定基準を採用しないことは、原則として実施医療機関の裁量の範囲を逸脱し許されないと解するのが相当である。

 なお、確かに、人間ドックは病気の自覚症状のない健常者を対象に行われるもので、しかも多くは勤労者を対象としているので、被検者にできるだけ時間的、精神的、経済的負担をかけないで実施する必要性があり、そのため、人間ドックは、全身的な検査を一日又は一泊程度で行うのが通常であること等の理由から、その検査方法、検査内容において、特定の疾病発見のための検査とは異なった限界が生ずることもまたやむを得ないというべきではあるが、判定基準の選択においてはそのような要請は認められず、また、人間ドックは相当程度の費用を支払ってでも受診しようという者が自発的に受診するものであり、いわゆる集団検診のような大量処理の必要性も薄いから、費用面や効率面から生ずる限界を重視すベきではない。

  赤井・岡田法律事務所
京都市中京区新椹木町通竹屋町上る西革堂町184番地
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執筆責任者 弁護士 赤井勝治(京都弁護士会所属)
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# by motomame | 2017-07-27 09:00
 以上のような、受診者側の主張及び病院側の反論を踏まえ、裁判所は、次のように判断しました。

 人間ドックは、疾病、特に癌や糖尿病といった成人病の早期発見と、適切な治療を受けさせるためのアドバイスを主たる目的として行われるものであり、受診者も当時の医療水準における適切な診断とアドバイスを期ヘして人間ドック診療契約を締結するのであるから、人間ドックを実施する医療機関としては、当時の医療水準に照らし、疾病発見に最もふさわしい検査方法を選択するとともに、疾病の兆候の有無を的確に判断して被験者に告知し、仮に異常かあれば治療方法、生活における注意点等を的確に指導する義務を有するというべきである。

 また、人間ドックはいわゆる集団検診とは異なり、健康管理に高い関心を有する者が自発的に受診するものであり、受診者は少しでも異常を疑わせる兆候が存在する場合にはその告知を受け、精密検査を受診することを希望しているのが通常である(それが、癌の存在を疑わせる兆候であればなおさらである。)から、実施する医療機関は、異常を疑わせる兆候があればこれをすべて被験者に告知し、診断が確定できない場合には精密検査あるいは再検査を受けて診断を確定するよう促す高度の注意義務を有するというべきである。

 また、人間ドックにおける検査項目、検査方法及び判定基準については、健保連と日本病院会の間において短期人間ドック契約が締結され、37の検査項目の実施を定め、さらに日本病院会が10の検査項目を追加した47の検査項目で実施するよう実施指定病院に対し指導するとともに、短期人間ドック指導規準を定めて指導していた。

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# by motomame | 2017-07-20 09:00
 これに対し、病院側は、次のように反論しました。

 人間ドックは、傷病等に対する治療行為を前提とした検査とは異なり、健常人を対象とした健康診断であるから、疾病の早期発見という課題の他に、受診者に時間的、経済的負担をなるべくかけずに検査を行い、病気でないものを病気でないと正しく判断し、健常人に不必要な経済的、精神的負担をかけてはならないという課題を有する。

 そして、この両課題を実現するためにいかなる検査方法を取り、いかなる判定基準を設定するかという点に関しては、検査を実施する病院の広い裁量に委ねられていると解すべきである。

 当時便潜血検査は生化学的方法によって行われていたが、生化学的方法はヒト以外の血液にも反応してしまうため、厳格な食事制限を行わない限り異常がなくとも陽性反応が出てしまうこと(これを「偽陽性」という。)が多い。
 しかしながら、人間ドックにおいては、前記のとおり受診者にできるだけ負担をかけないという観点から、厳格な食事制限を行うことは不可能である。
 そこで、当時病院では、人間ドックにおける大腸癌検査は精度の高い大腸内視鏡検査によって行うこととし、便潜血検査は下部消化管のうち特に小腸からの出血の有無を調べるために行っており、大腸癌発見を目的とはしていなかった(病院は受診者に対しても大腸内視鏡検査の受診を勧めたが、同人は受診しなかった。)。

 また、当時病院において用いられていた便潜血検査の方法は、生化学的方法のうちグアヤック法と呼ばれるもので、その試薬としてはシオノギBを用いていたところ、この検査方法は偽陽性率が高く、ワンプラスを陽性と判断すると本来異常のない者に対し不必要な負担を強いることとなり、前記人間ドックに課せられている課題に照らし適切とは考えられなかったため、病院では、ワンプラス以下を異常とは判断せず、ツープラス以上を異常と判断する判定基準を設けていた。

 このように、病院がワンプラスを異常と判断しない判定基準を設けていたことは、人間ドックの目的に照らし合理的なものであり、医療機関の裁量の範囲内といえるものである。

 そして、病院は、この判定基準に照らし受診者の検査結果を異常とは判断しなかったのであるから、受診者に精密検査等を指導しなかったことについて病院には何ら過失はない。

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# by motomame | 2017-07-13 09:00
 人間ドックは、現在多くの医療機関が実施しており、病気の早期発見のため、あるいは健康診断の代替として利用されています。
 この人間ドックにおいて、検査の見落としがあったなどとして法的紛争になる場合があります。

 そこで、今回は、人間ドックを実施する医療機関や医師が受診者に対してどのような義務を負うのかについて述べてみたいと思います。

 この点について言及した裁判例としては、東京地方裁判所平成4年10月26日判決があります。

 この判決では、人間ドックを実施した病院が、便潜血検査において、ツープラス以上を異常とする判断基準をとり、ワンプラスの患者に対して再検査、精密検査等を促さなかったところ、その患者が癌で死亡した事例につき、実施した病院に過失を認めました。

 それでは、以下、この判決を受診者側の主張、病院側の反論、裁判所の判断の順に見ていきます。
 
 まず、この裁判で、受診者側は次のような主張をしました。

 人間ドック診療契約においては、病院は、受診者の身体に各種疾患が存在しないかどうかを的確に検査し、その結果異常が認められた場合には、それが治療を要するものか否か、精密検査をする必要があるかどうか、継続して経過の観察を行う必要があるか否か等を判断し、受診者に対し、必要な治療、検査、経過観察等の指導を行う義務を負う。

 そして、受診者は、人間ドックにおいて行われた便潜血検査で、連続して陽性反応ワンプラスが認められたので、病院としては、大腸癌等の悪性腫瘍又は消化管潰瘍の存在を疑い、内視鏡検査等の二次検査を自ら行うか、その受診を指導すべき義務があったのにこれを怠り、受診者に対し何らの二次検査、指導を行わなかった。

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# by motomame | 2017-07-06 09:00
 これまで、「法定相続情報証明制度」について説明をしてきました。

 交付された法定相続情報一覧図の写しが、相続登記の申請手続きのみならず、被相続人名義の預金の払戻し等、様々な相続手続きに利用されることで、相続手続きにかかる相続人・手続きの担当部署双方の負担が軽減されることや、本制度を利用する相続人に、相続登記のメリットや放置することのデメリットを登記官が説明することなどを通じ、相続登記の必要性に関する意識の向上を図ることが本制度のねらいとされています。

 この法定相続情報証明制度は、戸籍の束に代替し得るオプションを追加するものであり、これまでどおり戸籍の束で相続手続きを行うことを妨げるものではありません。

 現時点においては、法務局における相続登記手続きは別として、金融機関等が従来の戸籍の束による相続手続きに替えて、法定相続情報証明制度を利用した相続手続きを認めるか否かはそれぞれの判断に委ねられていますが、この制度が普及していけば、相続手続きに関する相続人の負担が、費用・時間の両測面において軽減されることは間違いないところです。

 この制度の運用は、既に述べたように平成29年5月29日に始まったばかりですので、どの程度活用できるのかは、これからの運用状況を見守るしかありません。

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# by motomame | 2017-06-29 09:00