医療機関の労務問題について(3)

 次に、法定労働時間と割増賃金についてです。

 労働基準法では、労働時間の上限となる法定労働時間として、1日に8時間、1週間では40時間と定められています。

 ただし、使用者は、労働者の過半数で組織する労働組合(これがない場合には、労働者の過半数を代表する者)との間で労使協定(これを「三六協定」と言います)を締結して、労働基準監督署に届け出た場合には、上記の法定労働時間を超えて労働させることができます。
 この法定労働時間を超えた労働を「時間外労働」と言います。

 この「時間外労働」も無制限ではなく、原則として、1か月に45時間、1年間に360時間を超えることはできません。

 そして、時間外労働に対しては、割増賃金を支払う必要があります。割増賃金は、通常の賃金の2割5分以上です。
 通常賃金が1時間あたり1000円であれば、1時間あたり1250円以上となります。

 なお、割増賃金には、この時間外労働に対するもののほかに、休日労働に対するものと、深夜労働に対するものがあります。

 休日労働とは、労働基準法で定められた法定休日(週に1日又は4週を通じて4日)に労働することです。

 深夜労働とは、午後10時から翌日午前5時までの間の労働です。

 休日労働に対する割増賃金は、通常の賃金の3割5分以上であり、深夜労働の割増賃金は、通常の賃金の2割5分以上です。

 そして、時間外労働が深夜労働となった場合には、合計5割(2割5分+2割5分)以上の割増賃金を支払う必要があり、休日労働が深夜労働となった場合には、6割(3割5分+2割5分)以上の割増賃金を支払う必要があります。

 ただし、法定休日には、そもそも法定労働時間が観念できないので、休日労働に8時間を超えた労働があっても、その分つにいて時間外労働の割増分は加重されません。

 なお、休憩時間については、労働基準法で、6時間を超え8時間以下の場合には、少なくとも45分、8時間を超える場合には、少なくとも1時間以上の休憩を与えなければならないとされています。

  赤井・岡田法律事務所
京都市中京区新椹木町通竹屋町上る西革堂町184番地
                  オクムラビル2階
        TEL(075)257-6033
        FAX(075)212-3670
執筆責任者 弁護士 赤井勝治(京都弁護士会所属)
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# by motomame | 2016-09-29 09:00

医療機関の労務問題について(2)

 まずは、労働基準法では、採用(雇用契約の締結)に際し、使用者は、労働者に対して、賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならないとされています。

 ここで、明示しなければならない事項は、以下のとおりです。

 (1)労働契約の期間に関する事項
 (2)就業の場所及び従業すべき業務に関する事項
 (3)始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時点転換に関する事項
 (4)賃金(退職手当及び臨時に支払われる賃金等を除く。)の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
 (5)退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
 (6)退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払いの方法並びに退職手当の支払いの時期に関する事項
 (7)臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与及びこれらに準ずる賃金並びに最低賃金額に関する事項
 (8)労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
 (9)安全及び衛生に関する事項
 (10)職業訓練に関する事項
 (11)災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
 (12)表彰及び制裁に関する事項
 (13)休職に関する事項

 この点、必要な事項が記載された書式を、厚生労働省HPの主要様式ダウンロードコーナー
(http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudoujouken01/index.html)
から、ダウンロードすることができます(現時点で、「労働条件通知書」として掲載されています)。

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# by motomame | 2016-09-22 09:00

医療機関の労務問題について(1)

 医療機関においては、その長である医師以外に複数の医療関係者が従事しており、そこには雇用関係が存在します。
 そして、雇用関係が存在すれば、そこには必然的に労務問題が発生します。

 この点、医療従事者であるからといって、法律上特別な取扱いがなされているわけではなく、他の民間の事業者と同様に、労働基準法や労働契約法といった労働関連法規の適用があります。

 民間の事業者であっても、この労務問題については、その重要性にもかかわらず、知識が不足がちな傾向にあり、今日、紛争化する事案が増えています。

 この点、医療機関でも、労務問題に関する知識不足が見られます。
 しかも、医療機関によっては、多くの職種の専門家等が従事しており、しかもその職種ごとに労働条件が異なっていたり、また、労働時間についても、2交替、3交替といった複雑な体制となっているなど、問題の原因となる多くの要素を有しています。

 したがって、医療機関においては、他の民間の事業者以上に、労務問題にはしっかりと取り組んでおく必要があります。

 医療機関によっては、社会保険労務士などの専門家に依頼をされているかもしれませんが、医療機関の当事者が最低限の知識を有しておくことは重要です。

 ここでは、その最低限の知識の一部について、触れておきたいと思います。

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# by motomame | 2016-09-15 09:00

医療水準について(2)

 今回は、医療水準とはどのような内容のものかについてです。

 まずは、これまでに裁判所がどのような判断をしてきたのかという過去の変遷について、簡単に見ておきます。

 当初は、医療機関や医師には、「最善の医療」を提供する義務があるとされていましたが、何をもって「最善」とするのかという基準は示されませんでした。
 そのため、医療が高度化していく中で、文字通りに「最善の医療」を提供する義務を課すとすれば、医師にとって酷であり、ひいては医療の萎縮を招いて、医療技術の進歩の妨げになるなどの批判がありました。

 その後、未熟児網膜症に関する事件の昭和57年3月30日最高裁判決が、「基準となるべきものは、診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準である」と判示して以降は、この基準が広く使われるようになりました。

 ところが、今度は逆に、この判示が一人歩きし、医療水準は全国一律に決せられるものであり、医療の現場で広く行われている医療慣行が医療水準であるという論理が横行するようになりました。

 その後、平成7年以降の一連の最高裁判決によって、前記のような論理は正され、医療水準にいては、現在では、以下のように理解されています。

 すなわち、臨床医学の実践における医療水準は、相対的なものであって、全国一律な絶対的な基準ではありません。
 実際に診療にあたった当該医師の専門分野、所属する医療機関の性格、その所在する地域の医療環境の特性、当該医療機関と類似の特性を備えた医療機関での知見の普及度等の諸般の事情によって決定されるものです。

 したがって、医療水準は、平均的医師が現に行っている医療慣行とは必ずしも一致するものではなく、医師が医療慣行に従った治療行為を行ったからといって、直ちに、医療水準に従った注意義務を尽くしたということはできないことになります。

 抽象的で、申し訳ありませんが、結局は、「医療水準」は、上記の諸般の事情を考慮して、当該事案において、裁判所がかくあるべきであったと評価した医療行為の内容(水準)であるということになると思います。

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# by motomame | 2016-09-08 09:00

医療水準について(1)

 ここに医療水準とは、医療過誤訴訟において、裁判所が医師の過失の有無を判断するにあたって基準とする概念です。
 すなわち、医療水準を下回る医療行為が行われたり、医療水準に見合った医療行為が行われなかったりしたときに、過失があったと判断されることになります。

 医療過誤訴訟の判決の中には、しばしば、「診療当時の臨床医学の実践における医療水準」という文言が使われています。
 このように、ここで述べる医療水準というのは、医学的な判断の基準となる概念ではなく、法律的な判断の基準となる概念です。

 誤解を怖れずに言うと、そもそも医学的な判断と法律的な判断とでは、かなりの違いがあります。
 それは、着目すべき点が異なっているからです。
 医療機関ないしは医師が、医療行為としての評価に着目するのに対し、裁判所は、あくまで患者さん側の損害に着目します。
 そのため、この医療水準については、医師には、非常に理解しづらいものとなっているように思われます。

 その典型的な例として、「合併症」が挙げられます。
 医師からすれば、医学的に言われる「合併症」が医療過誤の対象とされることには違和感があるのではないでしょうか。
 しかし、法律的に見れば、医学的に言われる「合併症」であったとしても、それが不可避であったと判断されない限り、医師の過失責任が問題となり得ます。

 それでは、この医療水準とは、どのような内容のものなのでしょうか。

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# by motomame | 2016-09-01 09:00